「この曲を歌ってみたい」。感性だけを頼りに、数ある名曲の中から自由に選曲した。
名曲をカバーして歌うという時代の波に乗り、自身もカバー曲ばかりを収めた2枚目のアルバムを昨年に引き続いてリリースし、好評を博している。
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歌手・徳永英明 |
「いい日旅立ち」、「あの日にかえりたい」、「なごり雪」、「瞳はダイアモンド」…。30、40代の人たちが思わず口ずさみたくなる。はやったころの記憶が蘇ってくるような懐かしさとともに、今も古さを感じない名曲たち。「大ヒットし、みんなが知っている寿命の長い歌は、人の心に届きやすい。時を超え、勢いもエネルギーもある」
選んだ計13曲は、なぜかすべて女性ボーカルの曲ばかり。「別に“戦略的”に仕掛けた選曲ではありませんよ。メロディーや歌詞の美しさを重視するとこうなっただけ」とほほえむ。
独特の歌声。少しかすれたような甘さとあたたかみ、艶やかさを含んだ自身の声質に、「一番しっくりきた」曲ばかりだという。「女性ボーカルの持つ母性や、包み込むような優しさを表現してみた」と話す。
カバーを体験して見つけたものがある。それは、歌手も何らかの継承者であるということ。
長く愛された曲を歌っていると「こうした美しい響きを歌い続け、残していくことが自分の役割だ」と実感した。音楽にしみわたった日本の伝統、空気感、日本語の美しさを伝えていきたい−。自身が歌うことの意味を見いだした瞬間だった。
「最大の転機。初めは気付かなかったが、レコーディングを進めていくうち、実感としてつかめた」と手応えを語る。
曲を自己流にアレンジする歌手も多いが、基本的に原曲に忠実に歌った。「すでに日本の伝統文化になった曲」の良さを大切に、今にどう伝えるかだけに焦点を絞った。
「カバーは『奉納』。世に広まった歌をもう一度煤(すす)を払って現代に戻すのです。歌詞やメロディーの神髄を再現して、またおさめるという感覚ですね」。神髄を極めようと、こだわりが尽きないレコーディングだったという。
関西から19歳で東京へ。今年、デビュー20周年を迎える。平成15年には病気も経験、1年間の休養を取った。「辛いことや苦しいことも、すべて糧になっていると思います。過去は過去でしかない。いつも前を向き、挑戦していくのみ」と熱い。
新たな挑戦として、今秋公開の映画「旅の贈りもの 0:00発」に、俳優として出演した。映画は初出演。中高生の時、大好きだった映画。実は「いつか自分があのスクリーンの中に入ってみたい」と、密かに出演の機会を狙っていたのだそうだ。
ロケ地は、広島・島根などののどかな町。ここにも大好きな日本の古き良き風景があった。都会で傷ついた人たちがある町を汽車で訪れ、心が癒やされ、自分を取り戻していくというストーリーにも「昔の日本の心」を感じ、出演を決めたという。役柄は、町でただ一人の町医者。優しくてあたたかいお兄さんのような役だ。「僕はなぜか、特に演技せず、自然にしていればいいって監督に言われたんですよ。でも、いざ撮影が始まると夢中で頑張りました」と笑う。
さらに、来月からは全国でのコンサートツアーも始まる。今回は、80人規模のオーケストラの演奏で歌う「シンフォニックコンサート」。「クラシックのオケの空間の中で、どう表現できるか、とても楽しみです。生の演奏と歌の醍醐(だいご)味を味わってほしいですね」。
挑戦はまだまだ続く。