若い女性の着物姿を街で目にするようになってきた。ここ数年続く着物や“和”のブームの影響が大きいが、持ち前のセンスをうまく生かし、洋服に使う小物をあわせるなどして、日常着に和装を取り入れている。だが、着物のプロからは「帯の結び方が丁寧ではない」などと注文の声があがることも…。そこで、”おばあちゃん世代”にあたる着物の達人が、若い人が簡単に帯を結べる「原宿結び」を考案。着物を世代の架け橋とするべく立ち上がった。
|
赤いボタンの花のように作られた「原宿結び」を、独自のセンスで前にあしらった高野悠美さん=東京都渋谷区の「Tokyo 135°tansu−ya」(撮影・津川綾子) |
落ち着いた地模様のアンティーク着物。これに茶色いレースの長手袋をはめ、足もとには黒革の硬派なワークブーツ。帯締めの代わりにメッシュの革ベルトを締める。
アンティーク着物を扱うショップ「Tokyo 135° tansu−ya」(東京都渋谷区)の若き店長、高野悠美さん(22)の着物の着こなしは、和装というより、レトロに味付けをしたストリートファッションといったほうが近い。
「昔の女性は体が小さかったので、(今の女性が着ると)着物の丈が足りない。だから肌が出る部分を手袋やブーツで補っている」と高野さん。若い世代のファッションに対する貪欲(どんよく)な受容力を表しているが、一方で「着物にあこがれていても、『着方がわからないから』とチャレンジできないという若い人はたくさんいる」(高野さん)と指摘、「着付け」が着物の広がりの1つの“障害”となっていると残念がる。特に帯の結び方を難しいと感じている人が多いようだ。
そんな着物へのハードルを下げようと、今秋、調布市の「さくら着物工房」の鈴木富佐江さん(70)が新たに考案したのが、「原宿結び」という帯の着付け法だ。
手が思うように動かない高齢者のために、1本の帯を折り紙のように畳んで帯結びを作っておき、あとは簡単に装着できる「さくら造り帯」を考案、特許を取得している鈴木さん。その同じ作り方で安価な半幅帯を使い、結び方をより華やかにしたものが「原宿結び」だ。
リボン型、大輪の花のような形…1本の帯から女の子らしいモチーフを折りあげ、帯結びが崩れないように糸で留めて作る。着用するときは、腰に留めるひもを結べばいいだけという簡単さだ。
市販にも簡単に装着できるワンタッチ帯があるが、柄や帯結びのデザインに限りがある。「原宿結び」は気に入った色や柄の半幅帯を手に入れれば、オーダーメード(4000円程度)や自分で作ることができるうえ、帯を切らないので糸をほどけば元通りに1本の半幅帯として使うこともできる。
「ここ2、3年、街中を着物姿で歩く若い女性が増えたのはうれしいのですが、帯の結び方がめちゃめちゃなのがすごく残念でした。原宿結びが広がれば、もっと手軽にきれいに着物を楽しめるようになる」と鈴木さんは期待をふくらませている。
親世代の“着物離れ”一因
この冬、着物人気はますます勢いづく予感だ。若い女性に人気のフォトグラファー、蜷川実花さんが監督、土屋アンナさん主演の時代劇映画「さくらん」(平成19年2月24日公開)や「大奥」(来月23日公開)など、女性向けの大型時代劇の公開が続き、華やかな和装を目にする機会が増える。
「さくらん」のスタイリングも担当した着物スタイリストの杉山優子さんは「普段、例えば洋服に合わせていた防寒用のショールやかわいいバッグを和装に合わせたりと、“着物、着物しない”で、今の時代感覚に合いやすいコーディネートの提案を心がけている」という。
今、若い人が好むのはシックな色遣いの着物。「昔なら、若いんだからもっとかわいい赤い色を着なさい、と祖父母世代に注意もされたでしょうが、今はそんなことがなくなり、自由な感性で着こなすことが許されるようになったことも大きいです」。親、祖父母世代の“着物離れ”が、若い世代の新しい和装の広がりを助けているともいえそうだ。