ソフトバンクモバイルは1日、「通話料0円、メール代0円」などと強調した広告内容を今週末、見直すことを決めた。「0円」の文字を小さくする一方、無料にならない通話時間帯などの記載を目立たせ、消費者に誤解を与えないようにする。
同社の広告をめぐっては、公正取引委員会が景品表示法違反の可能性があるとして調査に乗り出しており、このままではイメージ悪化が避けられないと判断した。
奇策におぼれ…「孫流」誤算
携帯電話事業に新規参入したソフトバンクモバイルの“奇襲作戦”が空振りに終わろうとしている。利用者の関心が高い価格面で「0円」という奇策を前面に出し、一気に勝ちを取りに行ったものの、契約受付システムの障害に続いて広告の違法性が指摘され、もはや火だるま状態だ。
同グループを率いる孫正義社長の強引ともいえる経営手法はこれまでも行政や業界とさまざまな軋轢(あつれき)を生んできたが、今回の反発は異様に強く、「ベンチャーの旗手」として名をはせた風雲児の評価は大きく変わろうとしている。
「よくよくみると、落とし穴がたくさんある。必ずしも料金が安くなったとはいえず、広告の見せ方の問題だ」。ソフトバンクの新料金プランに対し、NTTドコモとKDDIは正面切ってこう反発した。
さらに、公正取引委員会は「無料にならないケースの表示が分かりにくい」と広告の問題点を指摘、企業イメージは深く傷ついた。ある携帯業界関係者は「ソフトバンクの『ぎりぎり体質』が印象づけられたのではないか」と手厳しい。
行政側も「不祥事が多すぎる」と問題視する。ADSL(非対称デジタル加入者線)事業に参入してNTTと熾烈な争いを展開し、日本のブロードバンド(高速大容量)通信環境の充実に貢献したが、予想を超える申し込みで回線開通に時間がかかったり、約450万人分の個人情報を漏洩(ろうえい)したりして行政指導を受けた。
「日本を変える」と言って既存業界を切り崩してきた孫社長は、多くの人を引きつけ、各業界にうねりを巻き起こした。しかし、テレビ朝日買収、東京電力と取り組んだ高速ネット事業、あおぞら銀行買収など「仕掛けたものの結果に結びつかない案件」も多く、振り回された企業や関係者らに反発の種を蒔いた。
その反発も、かつては「ベンチャー企業の挑戦」として限定的だったが、今回の反発は加入数1億台に迫る通信インフラ事業の一翼を担う企業に対するもの。奇策で乗り切れる時代は過ぎた。
本当に安いのは?
基本料金を払えば、自社同士の通話とメールが原則使い放題になる新料金プランを始めたソフトバンクモバイル。「通話料0円、メール代0円」の衝撃的な広告表示で注目を集めたが、NTTドコモとKDDI(au)は「実態はそんなに安くない」と反論。ドコモは2日から全国店頭で料金比較のチラシ配布を開始し、KDDIも販売店への営業トークの指導を徹底している。「番号ポータビリティー」(番号継続制度)が始まって1週間が過ぎたが、携帯会社選びは慎重な対応が必要になっている。
ドコモは2日に配布するチラシで「ソフトバンクの通話無料は加入者同士。日本の携帯利用者の約84%はドコモとauのユーザー」と指摘。固定電話にもかけることを考えると、「無料」を享受できる利用者が少ないことを皮肉っている。
KDDIも「ソフトバンク同士の通話が6割以上でないと(KDDIより)高くなる」と分析した。また、よく使う深夜時間帯の無料通話分は月間で合計200分までに限られ、1日あたり7分弱しか無料で話せない計算だ。ソフトバンクの孫正義社長は「通話時間の8割以上は1人の相手だけと話す。たくさん話したい人は時間帯をずらせばいい」と説明した。
一方、ソフトバンクは他社にはない特有の条件もつく。2年契約で携帯端末を割賦で購入する「新スーパーボーナス」に加入する必要がある点だ。
普及機種の場合、月々の代金をソフトバンクが補填(ほてん)し、利用者の負担はゼロになるが、契約期間中に解約すると、利用者は残額の全額を払う必要がある。端末の種類と解約時期にもよるが、7万円を超える場合もある。「端末の買い替えサイクルは1年〜1年半程度。2年契約は長すぎる」と競合他社が指摘する中、ソフトバンクは10日から1年と1年半契約プランを新設するが、月々の実質負担金はより多く上乗せされる。
ドコモとauの2強がほぼ横並びの料金体系の中、巻き返しを狙って独自性を出してきたソフトバンク。「0円」を強調した広告は見直すことになったが、利用者は使い方次第で得にも損にもなる。料金プランの選択肢が広がる中、自分の生活スタイルに照らし合わせることが重要だ。