−−70年以上前に書かれた戯曲ですが、現代に上演する魅力は何でしょうか?
今回は脚本家の飯島早苗さんが新たに脚色してくださったこともあり、時代的なものを感じないんです。現代のお客さまにも観やすい内容になっていると思います。セリフに少し、時代背景に関係する箇所が出てくるので、全くないわけではないのですが、私も70年以上前の意識はないですし、演じていても違和感もないですね。
−−翻訳物というジャンルは?
どうなのでしょうね。自分の中では翻訳物だとか日本の戯曲だとか仕切りがない気がします。宝塚歌劇団にいたので、外来物をやるのがあまり恥ずかしくないのかもしれませんね。テレビに出てらっしゃる方や劇団でお芝居していらっしゃる方より、カタカナ言葉に強いのかも。「オスカルっ!」なんて言っていましたから、翻訳物にも違和感がないんです。
「愛している」「キスして」と甘い言葉をささやきあっていた新婚カップルだが、隣の部屋の元夫、元妻の存在に気づいてからは急転直下。気まずい思いをしながら互いに話をするうちに、旧カップルは焼けぼっくいに火がついて…
−−甘い言葉をささやいたと思ったら、5秒後には怒りの感情もストレートにぶつけあう。日本人はここまで言葉に出さないですよね
どちらかというと日本人は自分のことを話すのが下手な面があると思われていますよね。でも、私は女優という仕事をやっているので、そういう部分はなくなっているのかなと思います。これも違和感がないです。アマンダのように言ってしまったほうが裏がないのではと思います。口に出さないほうが陰険な感じになることもあるし、ここまではっきりとお互いにぶつけあうと、逆に明るく感じるのだなと思います。
−−アマンダはどんな女性ですか?
単純、純粋で、ちょっとひねくれている。そして、ちょっと、意地悪だったりもします。
−−そこが可愛いさでもあるんですよね
そう見えるといいですね。4人の恋愛模様を観て、こんなことありえるかもと思っていただけて、アマンダのようになってみたいと思っていただけたらいいなあと。
−−アマンダには共感できますか?
こういう正直な人には共感できます。私も気持ちを隠さず、すんなり言葉にして行動してしまうという部分は同じなので。ただ私の場合は、アマンダのような可愛げのあるすんなりさかどうかは分からないのですけど。
−−演じる上で気をつけているのは?
このお芝居はじっくり考えることより、まず進むことを考えたほうがよさそうだなということかな。悩んでしまうと、物語の勢いが止まってしまうと思うので。もちろん役を考えることはしなくてはいけませんが、幕が開いたらもう突っ走れという感覚のするお芝居ですね。
−−登場人物がみなそういう立ち止まらない人生ですものね
決して立ち止まっていない。だから私たちも感情を内向しないというか、常にテンションを外に向けて持っていったほうがいいような気がします。
−−作品によってその感覚は違うのですか?
演出家さんの意向や脚本の流れがありますが、今回は立ち稽古を始めたときから、躊躇せずとにかく突っ走れという印象があったのです。テンポ重視ですね。もちろん中身もなくてはならないのですけど。
−−感情的な振り幅も大きいですよね?
演出の山田和也さんが細かく見てくださっているので信頼して、やりたいように走っていこうと。普段の日常生活では、ここまでコロコロと感情が切り替わることや、ここまで発散することがないですよね。こういう感情のはっきりした役は、出会えそうでなかなか会えない。特に女性の役は感情が押さえたものが多いので、アマンダはすごく楽しく演じていますし、こういう役に当たって幸せだなと思います
−−確かにアマンダは感情のおもむくままです
アマンダは、わがままを売りにしていい女性なんですよね。この作品の登場人物はみな、どこかわがままですからね。多分、人はだれでもこういうわがままな一面を持っているぞ、というのを含ませている作品だと思います。
−−では、ENAK読者に向けて作品の見どころを
人が人らしく描かれていて、そこに男女間の恋愛がプラスされた人間劇です。人間の面白さや楽しさ、そして恋をしている男女の愚かさや可愛さが描かれていて、人ってこんなにチャーミングなんだと感じられる物語。でも決してそれは夢物語ではないと思います。「人を好きになりたい」とか、「今、人を好き」だとか、「最近、人を好きになっていないなあ」という思いのある方は、こんな形の愛もあるし、人もいるのよというのをぜひぜひ観てください。そして、自分もこんな恋をしてみようかなと思ってもらえたら嬉しい。観ていただいた方の恋のエネルギーを、プラスに持っていければいいなあと思います。
−−演出の山田和也さんとは?
山田さんが東京宝塚劇場で舞台監督をしていらっしゃったころから知っていたんですが、2、3回、舞台監督さんとしてお会いして、そうしたらいつのまにか賞をお取りになっている偉い演出家になっていて。驚きましたね。
演出の山田和也とは2001年の「蜘蛛の巣」以来、「鹿鳴館」「虹の橋」「ハゲレット」と仕事を重ねてきた。共演者はみな、初顔合わせだ
−−山田さんはやはりウエルメイド・コメディの名手ですね
お得意だと思いますね。ご一緒するのは今回で5作品目なのですが、すごく楽しそうなんですよ。あくまで私の見方ですけど。出演者の人数が少ないので、話しやすいということもあると思います。
−−葛山信吾さんは?
葛山さんは、まだおとなしいですね。でも通し稽古になると、いきなりはちゃめちゃなことをやるので、本番になるとさらにその面白さが出てくるのかなと。 よく口ごもりながら「わからないんです」と言うのですが、そう言っている人ほどエンジンがかかると「どこまで行くの〜?」というぐらい勢いが出るので、とても楽しみです。
−−西川浩幸さんは?
独特の面白さを持っている方で、この稽古場では「西様」と呼ばれてます。苦手といいながらみなを仕切る側に回っていらっしゃいますが、この稽古場では、ことごとく、自分のペースが崩されるようで(笑)。私のことは、躊躇しながら「のんちゃん」と呼んでいます。でも出演者は5人ですから、名前を呼び合うほどの距離もないぐらい近いです。ともさと衣さんはチャーミングですよ。嫌みのないかわいらしい方です。
−−密度の濃いチームですね
戯曲の内容が濃いので、自然に濃くなっていったと思います。テンションをいっせいに、一緒の高さまでに上げていかないと大変な芝居なんです。まあ、それがズレたらズレたで面白いことが起きるかもしれませんけど(笑)。これだけ濃密な会話劇なので、一人で暴走してもダメ。相手の思わぬ変化球で、どんどん変わっていくかもしれませんね。
−−本番を重ねても変わっていきそうですね
変わっていくでしょうね。いけないことですが、体調やテンションなどいろんなことで繊細に変化することもあるだろうなと思います。これだけみんなが密接に感情を出し合っていくお芝居なので、ちょっとしたことでも違う雰囲気になったり。思わぬ誤算がいいものになったりするかもしれないです。
−−女優としての今後をお聞きしたいのですが、作品を選ぶ基準は?
選ぶ基準というものが、どういうものか分からないのですが、とりあえず何でも1回はやってみようと思っています。その仕事がどう広がるかなどは考えてないですね。その次の仕事は、次が終わってから考えようという感じです。
−−同じような役柄が続くこともあると思うのですが
強面の役が続くと、そういう仕事がきたりするなあとは思います。一般的にはどうしても「OUT」(桐野夏生原作、鈴木裕美演出)のイメージを強く持たれているようで、そのイメージを崩しにいこうかなと考えたりすることはあります。
−−商業演劇、ミュージカル、小劇場や社会派の作品、翻訳物など本当に色々なタイプの作品に出ていますが、お芝居のジャンルで好きなものはありますか?
どれも好きですね。ただ深刻な内容の作品が続くと「疲れたな」と思ったりすることはありますけど。とにかく、いろんなことができる人になりたいという思いがあって、こんなこともやらせてみようとか思っていただけて、そういう風に自然と仕事が広がっていくといいと思います。私は、欲深にならず、あんまりがつがつしないほうが意外とスムーズにいくタイプなのかなとも思いますし。
−−では、今後の自分をイメージして、どういう存在でいたいと?
まずは気持ち良く、年を取れたらと思っています。その中で役の幅も広がって、年とともに余裕が増えていくといいなあと。「この人が言ってくれたのなら大丈夫だ」と思ってもらえるぐらい余裕のある、おばあちゃんになれればいいですね。一女性、一人間としてまだまだですが、そういう人に成長できたらいいなあと。でも、それが一番、難しいのですけどね。