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森本レオ 森本レオ
森本レオ(63)。俳優としてよりも今や「機関車トーマス」をはじめとするナレーションなど、テレビやラジオに欠かせない“声の名優”だ。14日深夜から始まるアニメ「バーテンダー」(フジ系)でも、その声で番組をグッと引き立てる。「実はそんなにお酒には詳しくないんですけどね」と笑う森本に、新番組について、ナレーションという仕事について話を聞いた。
ナレーションは空を飛ぶ鳥の目線になれるんです。
カクテル作りは薬の調合と同じ
「バーテンダー」は青年漫画誌「スーパージャンプ」連載の同名漫画(原作・城アラキ、漫画・長友健篩)が原作。城はドラマ化もされた、ワインを題材にした「ソムリエ」の原作も担当するなど酒のエキスパートといっていい。「バーテンダー」の主人公は、東京・銀座のバー、イーデンホールの若きバーテンダー、佐々倉溜。「神のグラス」と呼ばれるカクテル作りの腕前をもつ。グラスから広がる人間度セクが展開される。一話完結の大人のいやしのアニメになる。
アニメの一方の主役は酒だが、森本自身は父親の影響で焼酎派だとはいうものの、実は酒に詳しいわけではないと苦笑いをする。

「本格的に飲み始めたのは40歳を過ぎてからですから。今回の仕事のお話をいただいたときも『ああ、ナレーションの仕事だな』と考えただけです」

森本レオ もっとも、自分のように酒に詳しくない人間のほうが、より楽しめるアニメだという。

「すごいんですよ。カクテル作りって薬の調合と一緒なんですね。“薬と思わせない薬”なんでしょうね。よいバーテンダーは心と体に癒しを与えてくれる。さりげなく客を観察してうまい具合に調合して。腎を休めるカクテルだとかがあって、そうなんだ、お医者さんなんだという感じ。この人はここを病んでいるから、これをベースに、あれとこれを交ぜて。そして、さりげなく出す。そうすると『おいしい』といってくれる。それが最高の報酬でこざいます。お酒をたしなまない人が見るとびっくりするんじゃないですかねえ」

話を聞くとなるほどと思う。まだ番組を見ていないのに、その世界観が、なにかしらの具体的なイメージを伴って伝わってくる。さすがの語りのワザだと、改めて感じ入ってしまう。

お手本はシナトラ、モンタン、ベラフォンテ
ボタンダウンのシャツにチノパンツ。テレビで見る森本レオのイメージそのものの装いはラフなのにすきがない。

ナレーションの仕事は約20年前、家電メーカーのテレビCMでやったのが最初だったという。当時は変なナレーションだと批判されたと振り返る。それどころかナレーションには苦手意識があったのだとも明かす。

森本レオ 俳優デビューは1967年。地元名古屋でだった。やはり地元のラジオで深夜放送のパーソナリティーを務めもした。そんなこともあってナレーション技術の勉強もしたのだが、アナウンサーのようにはっきりと語ることがよいとされる中で、独特の語り口は「めりはりがない」「流れが悪い」などと批判されたのだった。

「アナウンサーのみなさんは事実を冷静に伝えないといけない。自分の思いを込めてはいけないんですけど、僕らは逆に事実は最低限伝えて、自分の思いっていうか、夢の部分を大切にしたい」

そんな森本流語り術のお手本は、意外や歌の匠(たくみ)。フランク・シナトラやイブ・モンタン、あるいはハリー・ベラフォンテらだった。

「彼らはものすごくデリケートな表現をいっぱいしているんですよ。シナトラは後年、お酒を飲んで舞台に出て、酔いの延長線上でうたう。すごくわかりますね。“ステージの熱”でうたう、みたいなところが。彼らのレコードを聴いて、まねをしました。シナトラは音のにごり方、はずれ方、かすれ方などその瞬間しかできないような“立ちのぼらせ方”をする。そういうところをまねしたんです。だから、ナレーターじゃなくてシンガーと呼んでほしいな。歌の好きな人から『いいね』っていわれればうれしい」

歌の匠たちからはまた、声質の良しあしはたいした問題ではないのだということも学んだ。

「声は、その人の文化が作るのです。その人がどんな“旅”をしたかで作られる。高いところにのぼって見下ろす目線と、人にふみつけられて高みを見あげる目線をもっていれば、たいてい大丈夫ですね。美声を目指せばメカニックになってつまらない。シナトラはドレミファソラシドをきっちりうたうことはなくて、ドならドの音の許容限界ギリギリのところでうたう。音がはずれる、はずれないの微妙なバランスの中で、彼だけの世界をつむぐ。アナウンサーは常にど真ん中に投げるのが正しいんだけど僕らはインコースぎりぎりに投げる。楽しいのよ、そのコーナーいっぱい使うのが」

鳥の目線 バッハの目線
苦手意識がありながナレーションの仕事を増やしていったのは、そもそも「ドラマをやるよりは楽だから」と笑う。「人前に出るのが好きじゃないんで、ナレーションのほうが性分には合っています。せりふを覚えるのもめんどうくさいし」

morimotoleo07.jpg 「役者と目線が違うのもおもしろい。役者は面と向かって芝居をするから“ベートーベンの目線”なんですよ。ベートーベンは悲しいことがあると頭をかきむしる。モーツァルトは絶望しているときほどおちゃめにはしゃぐ。バッハは絶望しているときでも、神は黙して語らずと淡々としている。役者はモーツァルトまでの高さの表現。ストレートが逆説か。ナレーションは、バッハの目線になれるときがあるんです。空を飛んでいる鳥の目のような、そんな目線の高さを楽しめるのがうれしい」

「バーテンダー」も、そんな高い目線になれる仕事のひとつということだ。

「だれかが僕の体を借りて勝手に読んでくれているような気がするときがあるんです。だれかにそんな話をしたら『種をまいているんじゃないか』といわれました。たとえば『機関車トーマス』の場合は、子供たちの夢の中にそうっと種をまくような気分で語る。バーテンダーの場合なら大人っていうかな−−男は死ぬまで子供の部分もあるから−−“成人した子供”たちの夢にちょっとたねをまく。それがナレーションなのかもしれない」

さらには「バーテンダー」では、新しい発見もした。つまり、ナレーションとはカクテル作りだと。

「カクテルは同じお酒を混ぜるにしても、温度と氷の選び方、シェイクの仕方でまったくできあがりが変わるそうですが、ナレーションと一緒ですよね。監督のイメージ、音楽のイメージ、いろんなイメージを瞬時にカクテルすることがナレーションなんだよね」

シナトラが終生うたでの表現を探求し続けたように、ナレーションでの表現への夢はつきない。

「もう年ですからね。遺産をどう作るかと考えることがあるんですよ。僕は映画に育てられたので、“読む映画”をやってみたい。映画の場面写真だけを並べてこれにナレーションをつける。20分ぐらいのものでね。版権処理が難しいようですが、いままで観た映画、読んだ文学を、そういう形でさらえたらいいな」





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バーテンダー
毎週土曜日 25時45分から
初回のみ10月14日(土)26時25分〜55分

原 作 城アラキ
漫 画 長友健篩
連 載 集英社スーパージャンプ
監 督 渡辺正樹

CAST
佐々倉溜(ササクラ リュウ)
… 水島大宙

来島美和(クルシマ ミワ)
… 藤村歩

葛原隆一(クズハラ リュウイチ)
… 家弓家正

東山稔(ヒガシヤマ ミノル)
… 矢島正明

ナレーション
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