33歳のメグ(樹里咲穂)はエリートビジネスマン、ジェームス(戸井勝海)を射止めていよいよ明日が結婚式。友人で花嫁の付き添い人を務めるルーシー(香坂千晶)は、そんなルーシーにジェームスの秘密を明かそうと決意。同じく付き添い人になるアンジェラ(星奈優里)は猛反対。夫となる人の秘密を知るのが幸せか、知らぬが幸せか…。
「花嫁付き添い人の秘密」はオーストラリアの戯曲。今回はキャストひとりひとりにテーマ曲(歌)を作り、より親しみやすい工夫を凝らした。本来独白で埋められる場面で歌も交えるのだ。歌を書いたのが、人気のミュージカル俳優で音楽活動も続けている石井一孝なのも話題。
深いテーマをもちながら、明るく華やかでコメディータッチの舞台になりそうだ。
企画制作の宝塚クリエイティブアーツによると、出演者を宝塚歌劇出身者にしぼったのは(1)作品の根底にきずなというテーマがある。宝塚歌劇出身者同士には、目に見えないきずながあるので通じるものがあり、観客に伝わりやすい(2)ある意味結婚よりも歌劇にあこがれた青春時代を過ごした彼女たちなら、結婚を描くこの作品を、ふつうの女優に比べて客観的に演じ、結果的にある種ファンタジーの要素が加わる−−という理由から。
さて、主人公のメグを演じる樹里はというと…。
「年齢も近いし、私と似ているところも多い。明るいし、気ぃ遣いやし。でも結婚にあこがれているという点はどうなの? っていう感じ。私はあこがれていないんですよねえ。自分に比べれば“100万倍女の子”。“超女の子”」
やっぱり、結婚へのあこがれはない、と断言したうえでメグを分析し、さらに続ける。
「この作品では女の子同士でベタベタしたり、隠し事をされたらふくれちゃう。タカラヅカは作品というひとつのものに向かっていたので友達という以上にライバル、仕事相手だったりするので、もうちょっとドライでしたね」
2005年にタカラヅカを退団した後、最初に踏んだ舞台は大先輩の鳳蘭と共演した
「ベルリン・トゥ・ブロードウェイ〜with Kurt Weill〜」だった。これはミュージカル。
その後はショーの仕事が続き、本格的な芝居はこれが最初になるのだ。
女性役ならタカラヅカ在団中も経験している。月組「ME AND MY GIRL」(1995年)新人公演のジャッキー、同「WEST SIDE STORY」(98年)のアニタなどだ。
だからそのことよりも、今回気をもんだのはせりふ量が膨大であることのほうだという。台本どおりにまともに演じたら2時間半はかかるという長尺な作品なのだ。
「すごいことになっています。歌なら流れで覚えられるけれどせりふは相手があるものだし、覚え方が違うんです。でも、楽しい挑戦ですね。お芝居大好きなので楽しんでやっています」
難関は2分半にわたる独白の場面。
「台本にして2ページ。2分半しゃべり続けたことなんてありません。歌ならねえ、平気なんですけど」
独白場面は出演者全員にあり、そこが今回の工夫で石井作曲の歌で聴かせるわけだが、樹里だけは歌とたっぷりのせりふの両方が用意されている。
石井はそれぞれのキャラクターの性格に合わせた歌を作った。たとえば、安奈淳演じるメグの母親にはブルース。結婚にきわめてドライな付き添い人、ルーシー役の香坂千晶にはソウル。もうひとりの付き添い人、アンジェラ役の星奈優里にはミュージカル調のもの。そしてもうひとりの友人ナオミ役の森ほさちにはかわいらしいポップス−−という具合。
そして樹里にはバラード。
「すごくすてきな歌。いままでうたったことがないような、たとえば浜崎あゆみがうたって若者たちがすてきやねといってくれそうな」とお気に入りだ。
さて、タカラヅカ出身者同士の共演というのは、どんなものなのだろう。花組娘役だった香坂千晶は1991年退団だから、90年入団の樹里とはすれ違い。花組トップスターで昭和のベルばらでタカラヅカ黄金時代を築いた安奈淳は大先輩すぎて重なっていたはずもなく、今回が初顔合わせ。
「芝居の呼吸がとりやすいですよ。見えない部分、心の底で信じている、というところがあるんでしょう。不思議ですねえ。相手がどう出てくるか分からないという怖さがない」と、心地よさそうだ。
「みんなじょうずやなあって思います。私なんか“素人”やから、すいません、よろしくお願いします、みたいな感じですよ。香坂さんのルーシーという役はサバサバしていて男役さんみたいにかっこええ。安奈さんはおもしろい方。実家が近くということで、こんな共通点があったんだと話が盛り上がったことも」
一方演出を担当する劇団昴の三輪えり花とは初対面。英国王立演劇学校、さらにロンドン大学演劇家でも学んだ新劇の理論派だ。
「ものすごく頭のいい人。びっくりしますよね。頭の中にコンピューターが入っているんじゃないかって。私のやることに対して『そこはそうです』『そこはこうじゃない』といってくださる」と全幅の信頼を寄せる。
新しい出会いは、当然今後ますます増えるだろうが、そういう出会いがうれしくてしかたないともいう。
「楽しいですねえ。先日も別のお仕事で袖から舞台を見ていて、男の人が大勢踊っているなと考えた瞬間、『私、タカラヅカを辞めたんやなあ』と思った。そして『よっしゃ』とも。自分の世界が広がっているという喜びがあるんですよねえ。私はただタカラヅカをやりたくて入団しただけで、その後に女優をやろうなんて少しも考えていませんでしたから、こんなところにいるなんて」
役作りで既婚者に話を聞いたりはしたかと問うと、「周りに既婚者があまりいません。うちの同期、既婚者は3分の1もいるか、みたいな感じですよ!」。
思い出したように笑う。
「今回ごいっしょする(タカラヅカ出身の)みなさん、独身なんですよ」
タカラヅカを辞めたら「恋人できたんじゃない?」といわれることが増えたというが「いやあ、できたらいいんですけどねえ」と言ってからカラカラと笑う。
「結婚について焦りはありません。でも、犬を飼うことだけはしない。独身女性で犬を飼ったらおわりやでぇ、みたいな。愛犬にばっかり愛情を注いだらますます機会がなくなりそう」
だからこそ、メグという役はおもしろい。
「自分にない人生を生きる。だから役者は楽しい」
結婚にあこがれ、いよいよ明日が結婚式だとおおはしゃぎするメグ。いっぽう秘密を抱えるジェームス。メグはその秘密を知るのか。知らないままなのか。ふたりの結婚はどうなるのか。
「この芝居で、結婚とはこういうことなのかと初めて知りましたね。ちょっとまた遠のいてしまったかもしれない。危ない、危ない」
なんだか、男性が見たら肩身が狭くなりそうだ。
「なる、なる。でも勉強になるかもしれん。女性はこう考えているんだって。かわいいですよ、メグは。私やったらヨシヨシしてやるわ」
桂由美デザインのウエディングドレスを着る。
「お嫁さんって大変ですね。腕とかあがらないんですよ。そしたら『お嫁さんは腕をあげないから』といわれました。かわいいドレスですよ。超かわいい“じゅりぴょん”が見られる。そこ、みどころ! こんなこともするのね、みたいな感じで楽しい舞台なんですよ」
登場する女性それぞれが個性的で、ゆえに客席の女性はだれかに感情移入できるはずだともいう。だから、すべての女性に見てほしい。そして、男性は…。
「ぜひ、ジェームスの応援をしてください」