視覚障害者向けサービス
広めよう 点字ラベル 浸透へより努力も
7月25日(火) 東京朝刊 by 山口暢彦
商品などに点字ラベルをはる、視覚障害者向けサービスが広がりつつある。企業の社会貢献意識の高まりとともに、安価な点字ラベル印字機の登場もサービス拡大を後押しする。視覚障害者からは歓迎の声が聞かれるものの、一方で「周知が不足している」という指摘もあり、浸透への努力も求められている。

百貨店が導入
東急百貨店本店(東京)は5月、バリアフリー(障害排除)への取り組みを強化するため、点字ラベル印字機「点字テプラ」(キングジム)を2台購入した。

「点字ライター」を操作する吉見幸子さん=東京都渋谷区の「東急百貨店本店」
「点字ライター」を操作する吉見幸子さん=東京都渋谷区の「東急百貨店本店」


1台は8階のレストランのメニュー用に、もう1台は、目の不自由な人からの希望があればすぐ、購入商品に点字ラベルをはれるように、1階の案内カウンターに置いている。ラベルをはるのは、塩や砂糖の調味料の容器など、互いによく似ていて、外から触れても中身が分からないものが対象という。

カウンターで対応するスタッフは20人。「素早く正確に打てるよう、家に持ち帰って練習したりしました」とコンシェルジュ(接客係)の吉見幸子さん。だが、サービス開始後、まだ1人も利用していないという。それでも続けているのは「世の中の流れとして、バリアフリーに手を抜くわけにはいかないから」と、同店CS・コンプライアンス推進統括マネジャーの稲川守男さんは語る。

キングジムによると、静岡県内の薬局が薬を間違えないように薬袋に▽島根県内のタクシー会社は忘れ物をしたときに即座に対応できるように車番などを車内に▽長野県内の書店では希望者を対象にCDに、それぞれ点字ラベルをはるサービスを実施している。

シール無料配布
5月から全国のデパートやスーパーの売り場約1000カ所で化粧品用の点字ラベルの無料配布を始めたのは、化粧品会社の花王。ラベルは、クリーム、洗顔料など基礎化粧品を示したシール9種類や、ピンク、ローズなど色を示した6種類など計24種類にのぼる。

調味料の間違いを防ぐ点字ラベル
調味料の間違いを防ぐ点字ラベル


「5年前から、歯磨き粉など生活用品に点字シールを提供してきたが、ユーザーから『口紅の色の識別ができる点字シールを作ってほしい』などの声が寄せられていた」と、社会貢献部の高内美和さん。

シールは各売り場に10セット前後渡されているが、実際どれほどの視覚障害者に配られているかは把握できていないという。

点字ラベルが広がりをみせている背景について、「日本点字図書館」(東京都新宿区)用具事業課長の杉山雅章さんは「企業がCSR(企業の社会的責任)を重視する風潮になっていることがある」と指摘する。

印字機安く
安い点字ラベル作成機の登場も見逃せない。点字テプラの価格は4万5150円と、5万円を切っている。「これまで(の点字ライター)は10万円以上していたので、かなり安い」と語る杉山さんは、このような状況を歓迎するが、視覚障害者への周知は「今ひとつ」という。

「店頭やホームページでの宣伝だけでは不十分。地域の視覚障害者協会や役所の福祉部署に情報を伝え、より確実に障害者に伝わるようにすべきだろう」と話している。

●●●厚生労働省の「身体障害児・者実態調査」(平成13年)によると、視覚障害者の数は30万6000人。視覚障害になる年齢層で最も多いのは「40〜64歳」で29・9%。次いで「不詳」(17・9%)、「0〜3歳」(15・6%)。原因は疾病と事故が多い。中途失明の原因疾患で最も多いのは緑内障で25%。以下、糖尿病(20%)、黄斑(おうはん)性変性症(11%)などとなっている。

国内の視覚障害者のうち約3万人強が読めるとされる「点字」は、縦3×横2の計6つの点の配列で、ひらがなやアルファベット、数字などを表す。1825年にフランスでアルファベットの6点式点字が考案されたのが起源。日本には約50年後に伝わり、明治23年、当時の東京盲唖(もうあ)学校教諭、石倉倉次が日本語による6点式点字を作り、現在に伝わっている。
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