吉本に移った元タカラジェンヌ 「ボケの役で本当に笑わせたい」
すみれの園から笑いの国へ 仙堂花歩
7月23日(日) 東京朝刊 by 沢辺隆雄
まいまい 宝塚と吉本新喜劇。分かっているつもりだったが、「違いすぎてびっくりした」。

「お客さまを楽しませる」ことは同じでも、舞台のつくりや稽古(けいこ)の仕方、一つ一つが違った。「宝塚では、キラキラとかフワフワとか羽根とか、衣装をはじめ、いろいろなものに助けられますよね。お笑いの舞台って結構シンプルなセットで、衣装も普段着みたいな感じやないですか」

仙堂花歩(26)。宝塚の星組で娘役の次のトップと期待されながら、昨年8月に退団。吉本新喜劇に転身した。タカラジェンヌの転身は珍しくないが、ボケとツッコミ、全員でコケて笑わす新喜劇での一からのスタートは前代未聞。みんなが驚いた。

転身後の初舞台はホイットニー・ヒューストンとケビン・コスナー主演の映画「ボディガード」のパロディーのアイドル歌手役。「お客さんが、笑うか、笑わないか。うけても、すべっても反応がわかりやすい。お笑いのこわさはまだわかってない分、初舞台はやりきった感がありました」

母、瑛子も宝塚の娘役。才玉蓮の名で人気を集めた。「幼稚園のころからタカラジェンヌになるんだと思いこんでました。母のようになりたい。母がやったことは全部やるんやと」

幼いころの夢はかなえられ小学4年で東宝ミュージカル「レ・ミゼラブル」に出演。バレエ、声楽、日舞など厳しい宝塚音楽学校のカリキュラムも首席で通し平成10年に卒業、84期生として宝塚歌劇団に入団した。

転身のきっかけは、3年前、小劇場(バウホール)の公演で演じた「恋天狗」のヒロイン、お八重。「純粋でかわいらしい女の子ですが、二枚目半か三枚目の感じの役。お客さんが反応してくれたことがすごくうれしかった。それまでかわいいとか、きれいとか宝塚の娘役らしい役が多かったので」

翌年、大劇場公演「1914/愛」で演じたオルガはオペラ歌手志望だが変な声の娘、「歌で笑いをとる役」だった。宝塚でも「抜群の歌唱力」の仙堂がソプラノの美しい声を超高音にして観客をわかせ、「仙堂にしかできない」と好評を得た。「自分になかった要素に挑戦したい」。そんなとき、吉本新喜劇の新団員を募集する「金の卵オーディション」を知った。

まいまい 宝塚は今年もトップの退団ラッシュだが、トップになることだけがゴールでないという世界。「自分の年齢を考えると、それで終わりは嫌だった。早い切り替えがいいと思った」

新喜劇への転身には、みんなが反対した。宝塚のファンは熱烈だ。「がっかりした」「まいまい(仙堂の愛称)にはもっと歌ってほしい」。手紙に心を痛めた。

「8年間の宝塚でヒロインも務め、いい環境にいました。あまりに違う舞台で下積みからのスタートは精神的にもしんどいはず。両親も意外すぎて、そんなことを言い出すとは思っていなかったと思います。でも、母はむしろ宝塚に入りたいと言ったときに反対した。自分が経験している分、厳しい世界と知っていたから。退団には反対しませんでした。私は一度言い出したら聞かない、と分かっていたので。最後は後悔しないようにやりなさいと」

退団の日。昨年8月14日、東京宝塚劇場の公演の千秋楽を見にきた会社経営の父、泰之(69)が客席で倒れた。開演2分前だった。館内放送で知り、舞台の袖からのぞいたが、駆け寄ることはできない。プロとしてどんな状態でも舞台に立たなければならないと思った。容体が分からないまま、舞台を最後まで務めた。

父は心停止状態で危ない状態だった。観客に医師がいて、心臓マッサージなど早い処置が幸いした。「公演の休憩中、観客からすごい拍手がわいたんです。『病院に運ばれたお客さまが回復に向かっている』という放送でした。ファンのみなさまに助けていただいたという気がします。同時に父にしてみれば(新喜劇への転身は)よっぽどショックで心労があったのかと思います。それだけショックを与えたのなら、今はがんばらなければいけないですよね」

新喜劇の入団オーディション最終審査は、宝塚退団からまだ10日もたっていなかった。水着持参の2泊3日の合宿。男女雑魚寝(ざこね)で、まだ暗い午前4時に寝込みを起こされると、レイザーラモンHGが腰を振っていた。「5分後集合」といわれ、スッピンのまま外に出るとそのまま山のなかをマラソン。赤、青の扉を選ぶクイズで泥の中に落ちた。

「宝塚では台本をいただいて、髪形とか服装とか資料を集めて勉強して、役づくりをして、1カ月ぐらい稽古するんです。新喜劇は前日に1回稽古して、次の日はもう初日。ありえないと思いました」

お笑いのライブやNGK(なんばグランド花月)の出番、地方営業のほか、構成作家のコント講座で、ネタをつくって直し、また直すという日が続く。宝塚時代からのファンもライブなどを見に来てくれるが、まだ「歌ったり、踊ったりしてほしい。ミュージカルにでるときには教えて」という手紙も多い。一方で「“お姫さま”を捨てたときから個性が発揮された」と見守るファンもいる。

「今は、『もう嫌やわぁー』とか言いながら相方をたたく役が多い。誰かが笑いをとるための“振り”の役です。せっかくこの世界にいるのだから、ボケの役で本当に笑わせたい」

「歌や踊りを勉強してきましたが、笑いって大事や、と思います。もし世界中の人が笑っていたら。すごくつらいことがあった人がいても立ち直れたり。今は何でも挑戦したい」

幼いころからの夢は、幅を広げている。

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