感覚の共演、癒やし効果倍増
柑橘系や「木のぬくもり」…香る演奏会は都会のオアシス
7月19日(水) 東京朝刊 by 安田幸弘
ラベンダー、ミントにジャスミン…。さまざまな香りとともに楽器の音色を楽しむ演奏会が好評だ。自然の中で音楽を味わえるような雰囲気と、一石二鳥以上の癒やしの効果が人気の秘訣(ひけつ)。“香りたつコンサート”は都会の新たなオアシスとなりつつある。
会場に入った瞬間、ふわっと心地いい香りが漂ってくる。入り口から異空間に誘ってくれるのは東京の原宿クエストホールで年4回開かれている「SEASONS CONCERT」だ。
コンサート企画・運営会社「MINFAPLAN」(東京・杉並区)が一昨年から始めた演奏会で、アルパ奏者の上松美香が出演した昨夏は、柑橘系のさわやかな香気、チェロ奏者の古川展生が演奏した昨秋は木のぬくもりなど、四季折々の香りを演出している。
毎回、香りを作るのは創香家の金澤明美さん。事前に出演者の好みを聞き、天然のエッセンシャルオイル約20種類をブレンドしてオリジナルの香料を作る。それを小さなカートリッジに染みこませ、アロマファンと呼ばれる機材にセットして、会場に流す。
「都会の喧噪(けんそう)の中にいると、嗅覚(きゅうかく)は使わないで退化してしまいがち。実際にさまざまな香りをかぐことで嗅覚が研ぎ澄まされ、さらに別の感覚も開かれていく。そうすると演奏の聴き方も変わってくると思う。五感それぞれが一つにまとまって、さらに相乗効果を上げて“第六感”に響いていく感じ」と金澤さん。
来場者の反応はいい。「オアシスにいるような感覚になれた」「心に潤いを与えてくれる」−。出演者からも好評で、上松は「大自然で演奏しているような気持ちになれる。音楽にも『色』があるのでステージで体が感じるものは音色にも影響します」と、昨年に続き今月23日の演奏会への出演を自ら希望した。
福岡県北九州市に住むハーブコーディネーターの鶴田かず美さんも、定期的にハーブを採り入れた演奏会を開いている。
会場は3台のリードオルガンがある鶴田さんの自宅。地元のオルガニストの演奏に合わせて、昨年暮れの演奏会ではハーブとともにローズマリーやシナモンを、先月のステージではオレンジやミントの香りを混ぜた。
キャンセル待ちが出るほどの人気で、鶴田さんは「ハーブは素朴な草だけど心を豊かにしてくれる。そういう面はリードオルガンとの共通性があるので安らげる空間ができると思った」という。
同様の試みは都会を中心に広まりつつある。ピアニストの西村由紀江も昨年、「五感で楽しめるコンサート」をテーマにハーブなどを使った演奏会を開き話題を呼んだ。
音楽評論家の増渕英紀さんは「同時に多様な癒やしを求める人が増え、複合的なコンサートも多くなっている。ただ、大昔はお香をたいて舞っていたので、(香りのある演奏会は)ある意味、日本文化の原点」と語る。
プロが醸し出す音色と香り。一度に両方を求める日本人固有の欲求が現代の“癒やしのコラボ”を生み出しているのかもしれない。