各地に広がる募金型自販機　

7月11日(火)　東京朝刊　by 頼永博朗

ペットボトルや缶入りの飲料を買うと、代金や釣り銭の一部が福祉活動や環境保全活動などに寄付される募金型の自動販売機が、各地で設置されている。夏本番を迎えるこれからの季節、何かと重宝する自販機だが、街中で見かけたら、のどの渇きを癒やすだけではなく、社会貢献についても思いを巡らせてみてはいかがだろう。

飲料の売り上げの一部が募金にあてられることを告知するポスターが掲示された自販機＝東京都新宿区

「１本のジュースが森林づくりを応援します」。ダイドードリンコ(大阪)など飲料メーカー数社は、国土緑化推進機構(東京)と連携し、森林整備に充てる「緑の募金」を全国の自販機で展開している。

平成１４年の１号機から昨年末までに約２１００台を設置。商品管理や売上金の回収などは飲料メーカーが行い、設置者が売上金の２％前後を同機構に寄付する形だ。金額にすると１本当たり２〜５円という。

同機構からボランティア団体への助成金は年間３億円。募金部長の杉山勝さんは「自販機が増えれば、森林整備への理解者を増やすことにもつながる。消費者にとっても同じ代金で飲料を購入でき、かつ寄付もできることから、好評のようです」と話す。同機構では半年に一度、募金総額を自販機に掲示し、消費者への透明性を高める努力もしている。

伊藤園(東京)は、家族計画国際協力財団(ジョイセフ)と連携し、「ホワイトリボン運動」への寄付を行う自販機の設置を進めている。ホワイトリボン運動は国際的な活動。開発途上国の妊産婦の生命と健康を守ることを目的に、妊産婦の栄養補給や医療サービスのために寄付金を活用している。

募金額は１本当たり２円以上。１５年１０月に１号機を設置して以来、今年４月までに集まった募金額の総計は８０万円余という。東京都武蔵野市の緑生会水口病院は昨秋、この自販機を院内に２台置いた。経営管理室次長の金盛由佳さんは「産婦人科が専門なので、貧しい国の同じ母親を助けるという趣旨に、患者さんに共感してもらえる。職員の意識向上にもつながります」と話す。ジョイセフでは、ホームページ上でも運動に賛同する設置者を募集中。国際協力推進グループでは「病院を中心に問い合わせがあり、今後も設置台数が増えることを願っている」としている。

コカ・コーラボトリング各社も地域ごとに募金型の自販機に取り組む。

兵庫県豊岡市にはコウノトリの野生復帰支援に寄付できる自販機(近畿コカ・コーラ)が、岡山県笠岡市にはカブトガニの保護を支援する自販機(コカ・コーラウエストジャパン)が、北海道斜里町には知床の自然環境保護に役立てる自販機(北海道コカ・コーラ)がある。いずれも４月から運用されている。

一方、設置者や飲料メーカーが寄付金を負担するのではなく、購入者が直接、募金できる自販機も登場した。仙台市の東北福祉大学には同月、釣り銭の表示が出たら、「１０円」「１００円」と募金したい金額のボタンを押すだけで、お釣りから募金ができる。事業主体の民間非営利団体(ＮＰＯ)の「みやぎハートフルベンダー」は年内に２００台の設置を目指している。

「自販機は地域密着型のビジネス。募金型の自販機は、地域社会の中で共存共栄を図るための事業と考えている」。ダイドードリンコ営業統括部では、そう説明する。

日本自動販売機工業会によると、自販機の設置台数は１５、１６年前をピークにほぼ横ばい状態が続いており、昨年末現在で約５５０万台。このうち飲料の自販機は約２６０万台で、特に清涼飲料水の占める割合は高く、約２２０万台に上る。

ただ、今後、設置台数の大幅増は見込めないとみられている。同工業会では「オフィスビルの新築などがあれば自販機の新しい置き場になるが、全体的にはすでに行き渡っている」としている。

ある飲料メーカーの担当者は「福祉や慈善に関心の高い法人や個人は多い。募金型の自販機は、営業マンが設置をお願いする手段の１つ」とも。限られた設置場所に自社製品をいかに置かせてもらうか。募金型の自販機が広まる背景には、“場所取り合戦”という飲料業界の厳しい現状もあるようだ。