「男性のみ」クラスも
茶道に生け花…紳士の“たしなみ”に変化
7月9日(日) 東京朝刊 by 岸本佳子
これまで女性のものと思われてきたカルチャーセンターに男性が進出を始めている。囲碁や工作、文芸教室などはもちろん、茶道や生け花といった伝統的なおけいこにもその姿が目立つようになってきた。「男性オンリー」のクラスもあり、団塊世代の大量退職を来年に控え、センター側は生徒層を広げようと奮闘している。

生徒は男性のみという「はじめての男の茶道」=大阪市阿倍野区

大阪市阿倍野区にある「近鉄文化サロン阿倍野」。土曜日の午前10時、広々とした和室で茶道のおけいこが始まった。茶碗(ちゃわん)を持った生徒が静かに部屋に入る。「もう少し前に。そう、そのへんに」と先生がそっと声をかける。居並ぶ5人の生徒が熱心に見つめている。

通常のお茶のおけいこの風景なのだが、1つだけ違っているのは、生徒はすべて男性だということ。このクラス、その名も「はじめての男の茶道」。月に2回、6カ月のコースで、茶道の基本を学ぶ。

「茶道というのは、もともとは男性のサロンのようなものでしたからね。やってみようかな、という気持ちが大切です」と指導にあたっている茶道裏千家正教授、西川宗進さん。このクラスを始めて今年で3年、現在は高校生から60代、70代まで幅広い年齢層の男性が通ってくる。

開講当初から通っている生徒の1人、大阪市の近藤昌行さん(68)は、茶道に興味があったものの、女性ばかりの教室で学ぶことには躊躇(ちゅうちょ)していた。そんなときに、この講座が開かれると知って門をくぐったという。

「60年も生きてきて、まだ知らなかったことがたくさんあるんだなあ、と思わされます。面白いですね」と茶道の魅力を語る。

「楽しくおけいこしていただければ」という西川さんの言葉通り、おけいこは緊張感の中にも、質問が飛び交ったり、意見を述べたり、と和気あいあいとした雰囲気が漂う。「男性の皆さんはすぐに友達になられます。ほかの方が話の輪に入れるよう、上手に気遣っておられますね」と同じくこのクラスを指導する女性講師の中島宗満さん。「質問も多くて熱心です。そして急がずに、ゆっくりと納得できるまでおけいこをなさいます」と感心する。

同サロンの亀本季三代さんによると、センター受講者の9割は女性。やはり今も圧倒的に女性が多い。「男性の中にも何か習いたいと思われる方はおられますが、女性が多いと圧倒されてしまうようですね」

そこで、「はじめての男の茶道」をはじめ、男性のみの華道クラス「男のいけばな」や、1枚の鋼材からナイフを作る「はじめての手作りナイフ」など、男性が入りやすい講座を積極的に用意するようになった。

背景には2007年問題がある。来年から大量の団塊の世代が退職時期を迎える。時間的、経済的に余裕があり、学習意欲も高いこの層を、男女を問わず取り込もうと、各地のカルチャーセンターではアイデアを練る。

ただし、「この世代はひとくくりにできない世代。学ぶことへの意欲が強いということは分かっているのですが、何を学びたいと思っているのかは、まだよくつかめていません」(亀本さん)。文化的な教養か、それともものづくりなのか、福祉関係なのか…。こだわりの強い世代でもある彼らのニーズに応え、魅力を感じてもらえる講座とはどんなものか、亀本さんは「いまは試行錯誤が続いています」と語った。

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