「七月大歌舞伎」
市川春猿 鏡花劇で玉三郎譲りの2役
7月6日(木) 東京朝刊 by 生田誠
坂東玉三郎、市川海老蔵らが、泉鏡花の4作品を一挙に上演する「七月大歌舞伎」が7日から、東京・東銀座の歌舞伎座で始まる。鏡花の代表作とされる“幻想三部作”から、昼の「夜叉ケ池」で主役の白雪姫、百合の2役を演じ、夜の「天守物語」で富姫(玉三郎)の妹分・亀姫を務める若手女形のホープ、市川春猿に聞いた。
芝居、映画で玉三郎の持ち役だった白雪姫、百合を引き継ぐ春猿は、市川猿之助一門の若手女形のホープ。スーパー歌舞伎「ヤマトタケル」の弟橘姫(おとたちばなひめ)で存在感を示し、6月の三越歌舞伎でも「車引」の桜丸を好演した。
国立劇場の歌舞伎俳優研修修了生で、昭和63年に初舞台を踏んだ。「私のような門閥外の者が、歌舞伎座でこんなお役をやらせていただいてもいいのか。そんな気持ちが先に立って、本人はもちろん、周りの方々も本当に大変。謙虚な気持ちで臨みますが、舞台は小ぢんまりではなく、精いっぱいやらせていただきます」と抱負を語る。
「夜叉ケ池」は大正2年に発表された戯曲で、玉三郎主演の映画でも知られる。北陸の山奥で龍神との約束の鐘を守る百合(春猿)、晃(市川段治郎)夫婦のもとへ晃の友人だった学円(市川右近)が訪れる。日照りに悩む村人らは、百合を生け贄(いけにえ)として龍神にささげ、雨を降らそうとするが、百合は鎌で命を絶ち、洪水が村を襲う。龍神は実は美しい白雪姫(春猿)で、彼女もかつて同様の犠牲者だった。
「鏡花作品の魅力は言葉の美しさといわれるが、『あの、この、それは、あなた』という何でもない言葉が入ることで、せりふが何倍も美しくなる。大事にしなければいけないのは心理の表現。心が表に出ないとお客さまが感動しない」
一方、「天守−」の亀姫はこれまで中村時蔵、尾上菊之助、宮沢りえらが演じてきた。姫路城に住む美女の妖怪、富姫(玉三郎)を慕い、空を飛んで訪れるかわいらしくてキュートなお姫様。「私は玉三郎さんにあこがれて、歌舞伎役者になったようなもの。玉三郎さんの足の先にしがみついていくしかない」と話している。
玉三郎、海老蔵による「海神別荘」ほか。31日まで。