“文化”保護へ懐かしのメニュー
クジラ肉復活 学校給食や社員食堂などで
7月5日(水) 東京朝刊 by 伊藤鉄平
クジラの竜田揚げやハンバーグ…。学校給食や社員食堂などで、クジラ肉を使った懐かしのメニューが復活しつつある。昨秋から調査捕鯨の規模が拡大し、クジラ肉がより安価に流通するようになったためだ。食育に生かす例も多く、関係者は「クジラを食べたことがない」という若年層が増えるなか、日本人の“クジラ離れ”に歯止めをかけ、先細りするクジラ文化を“復興”させたい考えだ。
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「鯨食ラボ」が開催する業者向けの試食会。自慢のメニューは手前のハンバーグ。鶏肉と合わせることで、DHAなどが豊富なヘルシー料理となる=東京都港区 |
■人気1位に
「クジラは骨やひげ、尾っぽの先まで無駄にするところが1つもない大切な“食材”。もったいないを美徳とする日本の文化を伝えるのに最高の“生きた教材”です」
古式捕鯨の発祥の地として知られる和歌山県。同県教育委員会では昨年1月から、学校給食にクジラ料理を復活させる活動に取り組んでいる。子供たちに郷土の伝統文化を伝え、クジラ料理に慣れ親しんでもらうのが狙いだ。県内の実施校は約8割。くさい、固いなどのイメージはどこへやら、普段は食べ残しの多い子供たちがぺろりと平らげる。
市内の小学校4校に2カ月に1度のペースで竜田揚げやケチャップ煮などのクジラ料理を提供する「市立第一共同調理場」が6年生を対象に3月に行ったアンケートでは、もう1度食べたい給食の第1位に「クジラの竜田揚げ」があがった。
「薄くスライスするなどの工夫をしたのが良かったのでしょうか。『カレーライス』以外が1位になるのは初めてです」と同調理場の管理栄養士、吉永文恵さんは胸を張る。
クジラの生態や環境問題を教える“食育”の授業と組み合わせる学校も多く、同県での活動を参考に現在は大阪、奈良、東京、神奈川など、給食導入の取り組みは全国的な広がりを見せている。
■次代の需要を
「商業捕鯨の一時中断から約20年がたった。いつまでも中高年向けの“珍味”としての流通に頼っていたら、市場は先細りになる一方だ」
そんな危機感から、調査捕鯨を行う日本鯨(げい)類研究所では今年、学校給食用に限り、クジラ肉を市価の3分の1の価格で提供すると発表した。
こうした活動は、昨年11月から、南極海でのミンククジラの捕獲可能頭数が850頭に倍増、調査の副産物として流通するクジラ肉の出荷額が赤肉で1キロ1950円と、2割ほど安くなることに端を発する。
調査捕鯨にかかる費用には、前年のクジラ肉の売り上げが充てられる。安くなった以上、これまでより多く食べてもらわなければ、翌年の調査が立ちゆかなくなる。給食用の肉を安価で提供するのには「次代の需要を掘り起こしたい」との狙いがあるというわけだ。
■新たな可能性
大人に対する売り込みにも積極的だ。同研究所と水産庁は今年5月、クジラ肉の普及を図る新会社「鯨食ラボ」(本社・東京)を立ち上げた。
クジラのユッケやハンバーグ、揚げ団子…など和洋中を問わない新たなレシピを考案し、社員食堂や病院食などへの売り込みを図る。
クジラはほ乳類でありながら、その脂には、DHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)などの栄養成分が豊富に含まれるなど「肉と魚の良いところを併せ持った食材」(同社の中田博社長)。
高タンパク、低カロリーという食材の利点をPR。健康ブームに乗って、需要拡大を図りたい考えだ。すでに社員食堂を運営する数社から引き合いが来ているという。
6月のIWC(国際捕鯨委員会)総会で過半数が捕鯨を支持、商業捕鯨の再開に弾みがつく一方、国内のクジラの市場は縮小傾向にある。
中田社長は「クジラをより身近な存在にするためには、クジラの食肉としての価値を見直す必要がある。竜田揚げやベーコンだけでないクジラ肉の新たな可能性を模索したい」と意気込んでいる。