宮沢賢治 生誕110年
スタジオジブリが戯曲「種山ヶ原の夜」を作品化
9月4日(月) 東京朝刊 by 堀晃和
詩人で作家の宮沢賢治は今年、生誕110年を迎えた。この節目の年に、宮崎駿監督のアニメで知られるスタジオジブリが、賢治の戯曲「種山ヶ原の夜」を作品化した。岩手の方言や本物の虫の声などを通じて、自然や郷里をこよなく愛した賢治の魅力が伝わってくる。
舞台は、大正時代の岩手県北上山地。高原の小屋に泊まった19歳の伊藤君が、夢の中で樹木の精霊たちと出会い、樹木の伐採について語り合うというストーリー。自然への感謝と畏(おそ)れを描いた賢治の知られざる傑作である。
今回の作品で、脚色・作画・演出を担当したのは男鹿和雄さん(54)。「もののけ姫」「ハウルの動く城」などの美術監督を務め、現在上映中の「ゲド戦記」では背景を担当した。これが監督第1作で、以前から「種山ヶ原の夜」の風景を表現したいと思っていたという。
作品は動画ではなく、幻想的で美しい70余枚の絵画が、紙芝居のように続いていく。背景の風の音や虫の声などは、実際に種山ヶ原で録音したという。
原作は、作中の会話がすべて賢治の故郷である岩手の方言で書かれている。今回の作品でも、登場人物のせりふはほぼ原作に近い状態で、方言のリズムがなんともいえない味わいを醸し出している。男鹿さんは「方言は、野山の植生や気候、風俗習慣と並ぶ、その地方の重要な構成要素ですから」と話す。
伊藤君をはじめ複数の登場人物の声を担当したベテラン俳優の山谷初男さん(72)の存在も大きい。男鹿さんと同じ秋田県・角館高校を卒業した縁で出演が実現した。
「ゆっくり、はっきりと話すよう心がけた。方言の会話の良さが出ていると思う」。山谷さんの素朴で温かい話し方が、作品の大きな魅力のひとつとなっている。
映像は約27分。「三鷹の森ジブリ美術館」で先月行われた夏の特別イベントで上映され、大勢の観客を魅了した。今後の上映は未定だが、DVDで楽しむことができる。
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