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こだわった役者の涙
「ファミリー」イ・ジョンチル監督に聞く
10月31日(火) by 久保亮子
韓国で200万人が涙した、といわれる映画「ファミリー」(2004年)が12月、日本で公開される。父娘の葛藤(かっとう)や愛が深い悲しみのなかに描かれるが、演じる役者たちには「涙はこらえろ」と演技指導したという新人監督、イ・ジョンチル(37)に話を聞いた。


3年の刑期を終え自宅に戻った娘、ジョンウンと3年ぶりに再会した父、チュソクとの親子の絆を描くが、父娘は心を交わすことに戸惑い、愛情がすれ違う。

「最初は父と息子の葛藤を描こうと思っていました。ですが、私の姉が結婚し、新婚旅行から帰ってすぐに実家に泊まりに来たとき、母を見て泣き出すだろうと思っていたら、父に抱きついて泣いたのです。娘が父親を思う気持ちは、私が想像するよりもずっと深いのかもしれないと思い、書き直しました」

(C)2004 TUBE Entertainment. All Rights Reserved.

≪ 窃盗と傷害の罪で服役していたジョンウン。まだ顔には少女のあどけなさが残る。自宅で待つのは厳格で寡黙な父と、10歳の幼い弟、ジョンファン。出所して美容院で働き始めたジョンウンだが、かつての悪い仲間がまとわりつく。立ち直ろうとする娘を救いたい一心の父。そんな父の姿に次第に深い愛情を感じるジョンウンだったが、父は白血病に侵され、死期が迫っていた ≫

悲劇ではあるが、その悲しみがつつましい家族愛を浮き彫りにする。役者たちには「涙」について徹底的に指導した。

「演技指導をするたびに、俳優たちに状況をよく説明するよう心がけました。とりわけ、観客が涙を流す場面と役者が流すべき場面とは違う−ということを」

(C)2004 TUBE Entertainment. All Rights Reserved.

ジョンウンが父のひげを剃る場面がある。言葉では表現しきれない親子の愛情が湯気とともに洗面所に静かに立ちこめる。

「女性の観客に人気だった場面で、観客の多くはここで泣きました。ですが、娘を演じた女優、スエはここで泣くべきなのか。娘は父親に隠しごとをしています。『涙が必要か?』といつも役者たちに投げかけ、考えさせました」

ただ、一筋の涙がジョンウンのほおをつたう場面がある。死期を悟った父が幼い息子、ジョンファンに「父さんが死んだら、お前が喪主だ」と言って、男だけの酒を酌み交わす。そばで2人を見守っていたジョンウンは耐え切れずに泣くのだ。


「お父さんがひと言セリフを言うたびにスエは泣きました。『泣いてはいけない』と言い聞かせたのですが、ダメでした。何度も撮りなおしたので、セリフが役者になじんできた最後のほうのテークを使いました」

過剰な“悲劇”は嫌った。クライマックス。ジョンウンを脅迫する昔の仲間から父は命をかけて娘を守り抜く。監督は、最期の言葉を交わす時間を2人に与えなかった。

「シナリオを書いている段階では、2人を引き合わせようかという話もありましたが、それはやりすぎではないか、と思い選択しませんでした。もしも言葉を交わす時間があったなら、互いに『愛してる』と伝えたでしょう」

ジョンウンを演じる女優、スエは韓国のテレビドラマ界で活躍し、“涙の女王”の異名をとるが、撮影中はその“武器”をスエから奪い続けた。流れる涙ではなく、あふれ、こぼれる一滴に賭けたのだ。



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「A Family」 公式サイト
12月2日(土)よりシネマスクエアとうきゅう他にてロードショー

配給:ソニー・ピクチャーズエンタテイメント

第3回韓国映画大賞新人女優賞受賞
第25回青龍賞新人女優賞受賞
第41回百想芸術大賞新人演技賞受賞

イ・ジョンチル監督
1969年生まれ。漢陽大学演劇映画学科卒業。短編映画を監督し、シン・ヒョンジュンとキム・ヒソン主演の時代劇「アウトライブ〜飛天舞〜」(00)で助監督。本作で長編映画デビュー。妻と8歳になる娘の3人家族。