「戦場のアリア」 C・カリオン監督来日
悲しい歴史繰り返さぬために史実基に14年かけ完成
5月30日(火) 大阪夕刊 by 戸津井康之
1914年、第1次大戦中のフランス北部の戦場。敵対するフランス、スコットランド連合軍とドイツ軍兵士がクリスマスの一夜だけ休戦協定を結び、ともに歌い踊り明かした…。この史実を基に仏監督、クリスチャン・カリオンが映画「戦場のアリア」を撮った。完成までに14年を費やした作品。初来日したカリオンに聞いた。

「私が生まれ育った農場がその戦場でした。畑を耕すと今でも砲弾が出てくる。悲しい歴史を繰り返してはいけない」

そんな強い反戦の思いを作品に込めた。14年前、カリオンが見つけた書物にはこう記してあった。

〈仏北部の最前線、ノーマンズ・ランドと呼ばれる無人地帯で敵国同士の兵士が1日だけの停戦に合意する。きっかけは独軍塹壕を慰問公演のため訪れていたドイツ人テノール歌手、ヴァルター・キルヒホフの歌声だった。歌は100メートル離れた敵側塹壕の仏軍将校の耳に届く。「かつてパリ・オペラ座で聴いた歌声だ」。将校は気付き思わず称賛の拍手を送った。ヴァルターは拍手に感動し、ノーマンズ・ランドを越え、仏軍の塹壕へあいさつに赴く。同時に両軍兵士も塹壕を飛び出していた…〉

「この史実に興奮した私は以後2年を費やして資料を徹底的に調査し、この感動を何とか映画で世界に伝えようと決意しました」

当時、カリオンの本業は浄水装置のエンジニアだった。が、決意は固く、プロデューサーに企画を持ち込んだ。同時に仕事の合間にビデオカメラを回して数編の短編映画を完成させて発表。監督としての力量を証明してプロデューサーの説得にも成功、製作にこぎつけた。実に10年以上が経過していた。

たぎる情熱がスクリーンからあふれ出る。昨年のカンヌ映画祭に出品され、今年の米アカデミー外国語映画賞にもノミネートされるなど国内外で高い評価を得た。

「凄惨な戦地で友情をはぐくんだ兵士の勇気、平和を愛する気高さを映像でたたえたいという思いだけが私を突き動かした」

自身を性善説者であり楽観主義者だと分析するカリオンは「戦争は人類の愚かしい歴史行為。が、今が平和だとも思わない。私が暮らすフランスは移民の子が多いが、どの国の子も差別を受けていないと言えるだろうか? 偏見が育てば、やがて戦争につながる可能性が出てくるのです」。今後も人権を尊ぶ作品を作り、平和を訴えていきたいという。

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