ENAKが観た「迷い婚 すべての迷える女性たちへ」
結婚の現実と自分探しと
5月12日(金) by 久保亮子@ENAK
≪ロビンソン夫人と逢瀬(おうせ)を重ねる青年は、夫人の娘と出会ってほんとうの恋を知る。若者同士の恋に嫉妬(しっと)した夫人は、娘を別の男性と結ばせる。青年は、教会でまさに誓いをたてようとする娘を花嫁姿のままさらい、バスに乗り込んで旅立つ…≫
ご存じの方にはすぐに分かる。1967年の名作「卒業」だ。アカデミー主演男優賞に2度輝くハリウッドの名優、ダスティン・ホフマンの出世作。ロサンゼルス郊外の高級住宅地、パサデナを舞台にベンジャミン・ブラドックという青年の大学卒業後の憂鬱(ゆううつ)や倦怠を描いた。
さて今回紹介する「迷い婚」は、なんと自分の両親こそはベンジャミンと駆け落ちした花嫁かもしれない! と思い込んだ女性、サラ(ジェニファー・アニストン)が主役。「卒業」から数えるとサラはベンジャミンと関わった母娘の3代目にあたる世代。結婚という人生の決断や岐路に立ち向かう現代女性としてユーモラスに描かれている。監督はメグ・ライアンが魅力的だった「恋人たちの予感」(89年)のロブ・ライナー。
そもそもなぜ、サラはそのような疑念を抱いたのか−。彼女はニューヨーク・タイムズ紙の記者。ただ担当するのは冠婚葬祭のコーナーで、本人は不本意だ。仕事に行き詰まりピークを感じるなか、弁護士の恋人、ジェフ(マーク・ラファロ)に求婚される。
「このまま結婚すれば、自分の可能性はすべて終わり、後は退屈な人生だけが待っている…」
迷うなか、妹、アニーの結婚式に出席するため、ふるさとのパサデナへジェフとともに帰省することに。親戚、身内が集まるがパサデナ特有の保守的な空気は、サラの気分をさらにめいらせる。
そんなサラに祖母、キャサリン(シャーリー・マクレーン)が耳打ちする。
「あなたの母親は結婚式の1週間前に失踪(しっそう)したのよ。」
この言葉がサラの好奇心に火をつける。パサデナは映画「卒業」の原作である同名小説が生まれた町。
「祖母が誘惑した男性と駆け落ちしたのが私の母親?」
消化不良な日々との決別が訪れたかのように、サラは自分の“身元調査”に乗り出す…。
結婚への迷いを、“強奪婚”で締めくくった「卒業」にまで振り切ってしまう設定が、なんともおもしろい。
サラを演じるのは、米のテレビドラマ「フレンズ」のレイチェル役でスターの仲間入りをし、人気俳優、ブラッド・ピットの元妻としても知られるジェニファー・アニストン。結婚を目前にした女性の不安定さとユーモアのさじ加減が抜群だ。祖母に不安をぶちまけながらシャワーを浴び、さらに髪の毛をタオルでたばねる仕草など演技なのか“地”なのか分からなくなるほど自然だ。
結婚が人生に欠かせない節目だとは思わない。30歳を過ぎれば結婚を喜びばかりでは迎えられないことだって、ある。サラにとって、自分の“身元調査”は、現実から目をそらそうとして始めたことなのかもしれない。そしてサラはどんな“自分”を見つけるのか。
テニス仲間と結ばれた妹、アニーに「結婚相手は親友がいちばん」と声をかけるとサラは、ジェフの元へ戻ってこういう。
「私はあなたなしでも生きていける。でも、そんな生き方はしたくはないの」