中国映画「ジャスミンの花開く」
ツィイー、三様に咲く
6月23日(金) 東京朝刊 by 松本明子
アジアを代表する女優、チャン・ツィイーが中国映画「ジャスミンの花開く(茉莉花開)」で三世代にわたる娘役を一人三役で挑んだ。1930年代から80年代の上海を舞台に波乱の運命を描く大河ドラマ。7年前、「初恋のきた道」でツィイーの魅力を伝えたチャン・イーモウ監督作品のカメラマン、ホウ・ヨンの実質的な監督デビュー作だ。映画化を10年以上前から構想していたというヨン監督に聞いた。
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茉(下左)、莉(上)、花(下右)を1人で演じたチャン・ツィイー |
女優の夢を追う茉(モー)。その娘、莉(リー)は不妊症から精神を病んでいく。莉の養女、花(ホア)は夫と決別して自立を目指す。3人の名前を「茉莉花(ジャスミン)」からつけたのはヨン自身である。
「スー・トンの原作『婦女生活』を読んだ時点で映画にしたいと思った。女性の自意識と自立は、私が撮りたかったテーマ。個人的には花が理想の女性だが、感情の発散の仕方を描くのが難しかった」
母と娘の対立がもうひとつの柱だ。茉、莉の母、花の祖母という3つの役で、「ラストエンペラー」などで知られるベテラン女優、ジョアン・チェンが“母”を演じる。「母娘は離れられないけど憎み合う。チェンの演技は出色で、最も観客動員力のあるツィイーとの共演はエキサイティングだった」
ツィイーもまさに体当たりの演技。花が土砂降りの夜に路上で出産する場面は「7晩かけて撮った」という。ツィイーとは5年ぶりの再会だが、「『初恋−』のときは若い以外に魅力を感じなかったが、成長したね。当時は僕が綺麗に撮ってあげたんだ」と笑わせた。
実は、ヨンは15年前、一度映画を撮ったそうだが、「資金繰りや当局の検閲などに嫌気がさしてやめた」経緯があるという。名カメラマンだけに、物が落ちる場面ひとつをとっても美しく、「無自覚的な意識が働いたのでしょう」と語る。
師匠のイーモウは「言い過ぎかもしれないが、傑作だよ。商業性のある芸術映画だ」と褒めてくれたという。公開中。