引き込まれるユートピア
映画「エコール」 隔絶された少女たちの“美”と“毒”
12月5日(火) 産経Web by 福本剛
深い森の中、高いへいで外界と遮断された秘密の学校で生活する少女たち。そこは、男性のいない完ぺきなユートピア。少女らは妖精のように戯れ、かれんなダンスを踊る。不思議な陶酔の世界に誘われる映画「エコール」は、思春期に向かう純粋無垢(むく)な少女らの“美”を描く一方、影にひそむ“毒”も感じさせてくれる。
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映画「エコール」(C)L'Ecole,by Lucile Hadzhalilovic
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森の中の学校(エコール)で学ぶのは6歳から12歳までの少女。髪には学年を区別する7色のリボン。制服は白。そこにまた1人、6歳のイリスがやってきた…。
彼女の登場シーンが驚きだ。運ばれた棺の中から出てくるのである。まるで、卵から生まれたかのようにイリスは現れ、われわれも不思議なユートピアに引き込まれる。
こうした謎めいた美しき世界は、女性監督のルシール・アザリロヴィックの狙いでもあるようだ。学校での日常は、見る側には非日常に映る。2人の女性教師とともに少女らは生物を学び、ダンスを練習するが、そこに漂う耽美(たんび)で寓話(ぐうわ)的な世界は、かえって恐ろしくもみえる。
少女らにとって、エコールはだれにも邪魔されない理想郷である一方、自由を奪われた場所でもある。それに気付いたある少女はへいを上り、別の少女は小舟で対岸に漕ぎ出す。彼女らの不安と恐怖、迷いと葛藤(かっとう)は、大人になる前の心の揺れとも重なる。
12歳のビアンカには間もなく別れが訪れる。7年間過ごした者は、ダンスの成果を披露し、学校を去るのだ。突然外界にほうり出された少女らが思うのは、解放の喜びか、未知への恐れか。それもまた、少女から思春期への旅立ちとだぶる。
ラスト近く、外界の泉で戯れる少女らが無邪気で美しい。だが一転、男性の目にさらされた無防備な彼女らの危うさに、はっとさせられる。大人になるとは、こういうことなのだろう。彼女らは、どこに行くのか…。
原作は、映画「サスペリア」の元にもなったフランク・ヴェデキントの「ミネハハ」。個性的な少女らはオーディションで厳選されたという。
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