「時をかける少女」(昭和40年、筒井康隆著)や「
日本沈没」(48年、小松左京著)など日本SF文学創世記の代表作のリメーク映画がヒットしている。両作ともSFというジャンルを日本文学に定着させる転機となった小説だが、数十年にわたり、同じ作品が繰り返し映像化される理由とは何なのか。「今でなく、常に未来を予言するのがSF。だから繰り返し復活するんですよ」と筒井さん(71)は不敵に笑うが…。往年のSF文学再評価の理由を探った。
テーマの普遍性
「時をかける少女」の最初の映画化は23年前。大林宣彦監督、ヒロインを原田知世さんが演じ大ヒットした。映画化は3度目で初のアニメ化だ。
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「SF文学の魅力をより多くの若者たちに伝えたい」と期待を込める筒井康隆氏 |
「原作を書いた41年前にはまだ一般にSFという言葉が浸透していなかった。だから何とかSFを広め、啓蒙(けいもう)したいと当時は必死でした。こんなに語り継がれるとは想像していなかったですが」と筒井さんは苦笑する。
新作を撮った細田守監督(38)は中学一年の時に原作を読み「現実と違う面白い世界があることを知りSF小説に啓蒙された一人」と話す。
今でこそ過去や未来を行き来する物語は多いが、昭和40年代、日本に「タイムトラベル」という言葉や概念を浸透させるエポックとなる一作が「時をかける少女」だった。奇想天外で新鮮さを失わないその着想にリメークを繰り返す理由がありそうだが、筒井さんは「SFの奇抜な発想ばかりが面白がられてきたわけではない」と否定する。
「人間そのものは現在も未来も過去も全然変わらない。原作で描いた少女と少年たちの友情と愛という基本テーマは、どんな時代でも普遍で変えようがないんです」。リメークを試みる映像作家が続々と現れるのは「この時代を超えた普遍性にひかれるからではないでしょうか」と分析する。
見果てぬ未来
「SF小説とはその時代が持つ危険性を予見し、その先にある未来を予言すること。当たったものもあるし、はずれたものもありますが」。こう前置きしたうえで筒井さんはSF創世記をともに支えた盟友、小松左京さん(75)の「日本沈没」の再映画化について説明し始めた。
「小松さんは自らの戦災経験で『もし国が消失したら』という危機感を持ち、同時に、未来に起こる阪神大震災を予言し、日本人に向けたメッセージを小説に込めたのです」。今回の32年ぶりのリメークは、未来を見据えたメッセージがうそではなく、数十年経ってもさびつかなったことを証明したという。
小説「日本沈没」は昭和48年に発表され同年、映画化。平成版を撮った樋口真嗣監督はオリジナル版を見て映画監督を目指したという。新作では時代設定などを変更しているが、平成7年に起こった阪神大震災を彷彿(ほうふつ)とさせる場面もあり、小松さんが原作に込めた「あなたならどう生きるか」という普遍的なメッセージを活写している。
追いついた技術
筒井さんの小説の映画化は今年3本。「日本以外全部沈没」(河崎実監督)とアニメ「パプリカ」(今敏監督)の公開を控える。監督はいずれも筒井、小松両氏の作品に影響を受けて育った世代だ。「これまで映画で実現できなかったSF小説の世界観がCGやアニメ技術の発達で可能になったこともリメークブームの一因でしょう」と筒井さんは語る。「時をかける少女」や「パプリカ」では活字でしか表現不能と思われた登場人物の内面描写が「今の高度なアニメ技術が映像化を可能にした」と評価する。
今後の活字と映像の関わりをどう予想するか?
「映画を見た若者が原作に興味を持ち、活字へ戻ってきてくれれば。現在、私のSFは初版しか売れない。でもなぜか絶版にならない。なぜかって。未来を予言しているからですかね…」と筒井さんは笑った。