海外の傑作発掘 160本以上を輸入
フランス映画社 「BOWシリーズ」30周年
8月2日(水) 東京朝刊
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柴田駿さん |
世界の傑作映画を日本に紹介してきたフランス映画社(東京・銀座)が今月、配給開始30周年を迎える。BOW(バウ)シリーズと名付けて160本以上の作品を輸入。無名に近い海外の才能豊かな監督たちの名を広め、大手とは一線を画した単館ロードショーの上映スタイルを定着させた意義は大きい。社長の柴田駿さん(65)は「この30年でBOWは一つの使命を果たしたのかなと思う」と語った。
フランス映画社は昭和43年の設立。大島渚監督作品の輸出などを経て、51年から外国映画を紹介するBOWシリーズを始めた。BOWはベスト・オブ・ザ・ワールドの略。英語で舳(へさき)の意味もあり、「傑作は世界中で発見されるのを待っている。何年かかろうとも船で日本に運ぶという思いも込めた」と柴田さん。日本では無名の監督や大手が手を出さない名作、日本未公開の古典など隠れた傑作を拾い上げるため、副社長で妻の故川喜多和子さんと海外を飛び回った。
初上映は「新学期・操行ゼロ」と「恐るべき子供たち」の仏映画2本立て。1933年作品の「操行ゼロ」は日本未公開で「監督のジャン・ヴィゴはゴダールら世界の映画作家がこぞって尊敬する人物。どうしても最初にやりたかった」という。
しかし当時は映画のミニシアターなどない時代。一般うけする作品でないため上映館が見つからない。演劇で有名な都内の三百人劇場で公開したところ、連日の大入りで興行関係者を驚かせた。3年後には、ギリシャのテオ・アンゲロプロス監督作品「旅芸人の記録」を公開。4時間近い大作で1日2回が限度の上映だったが、全国で繰り返し上映されて10万人を動員する大ヒットに。その後、都内でミニシアターが相次いで開館し、また単館での興行形式も定着した。
アンゲロプロスのほか、「ミツバチのささやき」(スペイン)のビクトル・エリセ、「ストレンジャー・ザン・パラダイス」(米)のジム・ジャームッシュ、「ベルリン・天使の詩」(独)のヴィム・ヴェンダースらは同社の配給で広く知られるようになった監督たち。またゴダールやロメールら巨匠の作品も集中的に紹介。監督中心の構成は熱狂的なファンを生み、商業ベースに乗りにくいとされた作品の上映を成功させてきた。
傑作の紹介には思わぬ苦労も。「税関からゴダールの映画でヘアが見えるといわれ、なくなくフィルムをけずった」。平成5年にはイギリス映画で同じ指摘を受けたが、配給会社として初めて異議を申し立て、ノーカット上映にこぎつけて大きな話題となった。
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30周年映画祭を祝福し、ヴェンダース監督が贈ったカリグラフィー |
記念の「BOW30映画祭」では、30年間に紹介した約80監督のうち30人の39作品を上映する。旧知のヴェンダース監督は開催を喜び、30人の監督の名前を用いたカリグラフィー(書き文字)による絵を柴田さんに贈った。「アンゲロプロスには『もう30年やれよ』といわれた。どこまでやれるかわからないが、傑作を紹介し続けたい」
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映画祭は11日まで。東京・日比谷のシャンテシネTEL03・3591・1511。
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