韓国ドラマ「チャングムの誓い」の影響で、薬膳(やくぜん)料理に注目が集まっている。宮廷女官のチャングムは体の弱い王や王妃のために食事の研究を重ね、「薬も食事も同じ素材から作られる」という「薬(医)食同源」を体現した。ドラマのヒットにより、日本人の食生活を見直す動きにもつながっているようだ。
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豆腐と野菜で色鮮やかな「豆腐チョンゴル」(撮影・村島有紀)
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薬食同源
東京都内で韓国薬膳の店が相次いでオープンしている。薬膳の発祥は中国だが、朝鮮半島では、漢方をベースに発達した「韓医学」の影響で、「食べるものはすべて薬である」という考えが根強い。昨年、東京・表参道にオープンした韓国料理店「味道」は、「薬食同源」が最も発達した李氏朝鮮王朝の宮中料理をベースにしている。
宮中料理の代表格は、サムゲタン。生後30日未満の鶏のおなかのなかに、万病に効くといわれる高麗ニンジン、もち米、ナツメ、クリ、ニンニクなどを詰め、熱湯でひたすら煮込む。灰汁(あく)や油分を取り除き、調味料は入れず、食べるときに塩だけを入れて調節する。夏バテ防止や滋養強壮などに食される。
また牛肉を、すったナシに半日漬け込み、ダイコン、ニンジン、ニンニクなどの根菜類とじっくり煮込んだ「サテチム」は、消化がよく栄養価が高い。ナシ汁に漬けるのは肉を軟らかくし、消化を助ける働きがあるからだ。食用の松の実を使ったかゆも人気のメニュー。美肌効果があるとされる松の実を使ったかゆは、栄養たっぷり。韓国では二日酔いなどで食欲がない時にも食べる。
表参道という場所柄、若い女性の来店を想定していたが、客層はお年寄りから子供たちまで幅広い。「祖父母と孫の3世代で来店する人が多いのは意外でした。油分が少なくさっぱりして、辛くない料理が多いからでしょう」と総料理長の井上博幸さん(43)は驚きを隠さない。
料理を監修した料理研究家の崔誠恩さん(47)によると、薬膳料理のレシピの基本は「五味五色」。五味とは、酸い▽辛い▽しょっぱい▽苦い▽甘い。五色は、トウガラシなどの赤▽米、小麦などの白▽のり、黒ゴマ、しょうゆなどの黒▽葉物の緑▽ニンニクなどの黄色。崔さんは「5つの味、5つの色をバランスよく食べれば健康によい」とアドバイスする。
東京・四谷に4年前に韓国薬膳料理店「ハレルヤ亭」を開いた呉淑子さん(65)は、祖母が李氏王朝の料理人。人気の「豆腐チョンゴル(寄せ鍋)」は、豆腐の表面に甘草などの漢方薬を塗る。血液の循環を良くする効果があるという。呉さんは「韓国料理が今のように辛くなったのは南北(朝鮮)戦争の後からで、もともとはそれほど辛くない。本来は野菜が多く、低脂肪の健康食です」と話す。
食材の効能
糖尿病や高脂血症などの生活習慣病が増えるなか、体にとってよい食材とは何か−など、食材の効能についての関心が高まっている。
薬膳科学研究所を持つ中村学園大学(福岡市)では今年を「薬膳元年」と位置づけ、上海中医薬大学と合同で、「日中薬膳・機能性食材博覧会」を今月、同市内で3日間開催した。各国の薬膳料理の紹介や、セミナーを開いて薬膳の知識普及に努めた。平日にもかかわらず、予想を上回る1万2000人が来場し、中高年の姿が目立ったという。
NPO法人「全日本薬膳食医情報協会」(東京都)の田島庸喜(のぶよし)・主任研究員(30)は「バブルのころには、スッポンやムシが入ったゲテモノ料理が“薬膳”という誤った意識が広がった。しかし、日本でも冬至に、体を温めるためにカボチャを食べるように、昔から(医食同源の考えは)あった。チャングムをきっかけにした薬膳ブームは、食と健康を見直すきっかけになった」と話している。同協会は来年4月から、料理人向けに講習会を開き、薬草や食材の効能の知識を広めていくことにしている。