ノロウイルスを原因とする感染性胃腸炎の流行が全国へ広がり、過去最大の規模に達した。食中毒で職員がノロウイルスに感染した秋田県庁では、16日から4つの庁舎のすべてのトイレの消毒を行う異例の対応に乗り出した。厚生労働省が警報値とする1医療機関あたり週20人の患者報告数を超えた都道府県は26都府県。感染拡大を防ぐ鍵は人から人への二次感染防止だ。
秋田県庁では16日朝から、マスクや手袋で防備した清掃員が、庁舎のトイレの蛇口や壁、ドアなどを塩素系殺菌消毒剤で丁寧にふく作業に取りかかった。
発端は秋田市内の仕出屋が11〜13日に作った弁当で発生した食中毒。弁当を食べた県庁職員ら52人が、12日以降、嘔吐(おうと)や下痢などに襲われた。14日夜にノロウイルスが検出され、にわかに県庁舎からの二次感染の恐れが浮上した。
県は「県庁発の感染拡大を阻止する」(県健康推進課)と、患者が使用し、二次感染源となりかねない場所の一斉消毒を決めた。
またこの日、同県大館市の小中学校8校で児童、生徒約340人のほか、北海道上川町の観光ホテルで宿泊客167人について、ノロウイルスが原因とみられる集団食中毒が発生していたことが新たに判明。金沢市内では特別養護老人ホームに入所していた96歳の女性が、ノロウイルスによるとみられる感染性胃腸炎を発症し死亡した。福井県内の身体障害者施設でも、感染していた可能性がある50代男性が死亡したことがわかった。
ノロウイルスは感染力が強く、せっけんやアルコールを使った清掃でも死滅しない。吐瀉(としゃ)物を掃除するときに手についたウイルスが、蛇口やドアノブなどに付着し、次々トイレを使う人に感染するのが感染拡大のパターンだ。
厚労省は、今月上旬、「ノロウイルスに関するQ&A」を改定しホームページに掲載。二次感染防止に焦点を置き、患者の便や吐瀉物に直接触れずに処理し、汚れた場所を塩素系殺菌消毒剤で消毒することや、徹底的な手洗い、調理器具の洗浄・殺菌、食品の加熱など感染防止策を示した。
国立感染症研究所によると、11月27日〜今月3日までの1週間に、全国約3000カ所の医療機関から報告された感染性胃腸炎の患者数は6万5638人。1施設あたり21・77人で、昭和56年の調査開始以来最多。県別では福井(45・18人)、富山(43・17人)、群馬(32・81人)の順に多いが、東西格差はない。
厚労省は「おそらく今が感染のピーク。国民一人一人の徹底した予防で拡大を封じ込めたい。協力を」と話している。
ノロウイルス
人だけに感染し、腸管で増殖、下痢や嘔吐(おうと)を引き起こす小型球形ウイルス。手や食品などを介して経口感染する。24〜48時間の潜伏期間後、突如発症する。健康な人は1〜2日で治癒し軽症ですむが、子供やお年寄りでは重症化したり、吐瀉(としゃ)物を誤ってのどにつまらせ死亡することも。効果のある抗ウイルス剤はなく、治療は水分と栄養の補給といった対症療法しかない。