【ニューヨーク=長戸雅子】米誌タイムは16日、毎年恒例の「今年の人」(パーソン・オブ・ザ・イヤー)に、「あなた」を選んだと発表した。世界中の人々がインターネットを通じて情報を発信、コミュニケーションのあり方を変えたとして、「デジタル民主主義の市民」が今年、最も影響力があったと認定した。
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恒例の「今年の人」に「あなた」を選んだ米タイム誌最新号の表紙(AP) |
「今年の人」は、1年間で最も話題となり、影響力があった人物を選出する企画で、1927年から行われている。2004年はブッシュ米大統領、昨年は米マイクロソフトのビル・ゲイツ夫妻らが選ばれているが、03年の「米兵士」のように個人以外の例もある。
18日に発売されるタイム誌の表紙にはコンピューターが描かれ、その画面部分が鏡のように反射する仕組みになっており、雑誌を手にした人、つまり「あなた」が今年の人を示すようになっている。候補者には核実験実施などで世界を騒がせた北朝鮮の金正日総書記も挙がっていたという。
功罪…使い方もあなた次第
【ロサンゼルス=松尾理也】ユーチューブ、ウィキペディア、マイスペース−。これらが、タイム誌が「今年の人」に選んだ「あなた」に会える場所だ。ユーチューブは利用者投稿型の動画サイト、ウィキペディアは利用者参加型の百科事典プロジェクト、マイスペースは、会員に情報交換や出会いの場を提供するソーシャル・ネットワーキング・サイトのこと。タイム誌のいう「あなた」とは、こうしたサービスの利用者のことにほかならない。
「あなた=ネット利用者」という認識は、興味深い。「デジタル・デバイド(情報格差)」問題が叫ばれたのが、もはや過去のことのようだ。2006年はインターネットが先進的であったり特別であったりすることがなくなった年、として記憶されるかもしれない。
こうしたネットの変化を主導する一連のサービスは、「ウェブ2・0」と呼ばれ、タイム誌は「古いソフトウエアのバージョンが新しくなっただけのようだが、実際には本物の革命なのだ」と、持ち上げる。
情報の閲覧、つまり受信を主とする従来のネットから発信を主とする「2・0」への変化は、確かに米社会に甚大な影響を与えた。
共和党が退潮し、民主党が躍進した11月の中間選挙でも「ウェブ2・0」の影響を見ることができた。候補者がうっかり漏らした本音やしぐさが、ネット上の動画として提供され、勝敗の帰趨(きすう)を決するという事態は珍しくなくなり、「ユーチューブ政治」に気をつけろ、との大合唱がわき起こった。ちなみにタイム誌は11月、ユーチューブを「今年の発明」にも選んでいる。
情報を特権階級の独占から解き放ち、水平的なネットワークを構築するという、ネット時代ならではの「デジタル民主主義」の思想が、ここに来て具体的な形を得た感さえある。
ただ、ユーチューブ上で繰り返される著作権侵害や、マイスペースを舞台にした性犯罪や非行の頻発など、負の側面も無視できない。「ウェブ2・0は大衆の英知と愚かさの両方を引き出す」(タイム誌)としたら、われわれが「ウェブ2・0」を使ってたどり着く先は、「あなた」であるわれわれ自身にかかっている。