冬本番を告げる足音が日に日に大きくなる今日このごろ、時間がたっても、ほかほかのご飯が食べられる保温弁当箱が売れている。小さくて軽い持ち運びに便利な商品が続々と登場し、包み込む断熱ポーチのデザインも多彩になった。「重くてかさばる」と、大容量のランチジャーには手を伸ばさなかったビジネスマンやOLを中心に愛用者が増えているようだ。
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人気の保温弁当箱。緑やピンクなど華やかな色も増えた=東京都渋谷区の渋谷ロフト |
ランチが楽しみ
「ご飯にはしを入れた瞬間、ふっくらした感触を味わえるのがうれしい」
今年から保温弁当箱を使い始めた大阪市内の女性会社員(26)は声を弾ませる。食費節約と栄養のバランスを考えて2年前から弁当を持参しているが、「持ってきたのりを巻いて食べたり、ふりかけをかけたり…。ランチの楽しみが格段に増えた」という。
保温弁当箱は、ご飯容器をステンレス製の保温ケースに入れることで熱を保つ。室温が20度程度ならば、詰めてから6時間後でも50〜60度の温かいご飯が食べられる。
東京・渋谷の渋谷ロフトには12種類の保温弁当箱がそろう。
「寒くなるにつれて関心が高まってきた。サラリーマンや20代の女性の方がよく購入していきます」と、売り場担当の中村梨紗さん。価格は2919円〜3654円と、かなり高めだが、2週間前のコーナー設置以降、通常の弁当箱の2倍以上の売れ行きだという。
帰りは半分に
大手メーカーの開発競争も熱を帯びている。
サーモスが9月に発売した「ホットランチ」シリーズは、保温ケースのステンレスを薄くすることで、従来品よりも一回り小型化することに成功した。ごはん容器は電子レンジでの温めもOK。「保温ケースに入れる前にご飯容器ごとレンジで温めておくと、より温かく食べられます」(企画室)。タイガー魔法瓶も男性向けに茶碗(ちやわん)2・3杯分入れられるサイズを新たに作った。断熱効果のあるポーチもカラフルな色柄を増やし、若い女性にアピールする。
持ち運びのしやすさを追求したのが、象印マホービンの「お・べ・ん・と」シリーズだ。容器を重ねて収納できるので、食べ終わった後は約半分の大きさにできる。「『空の容器がかさばる』という悩みを少しでも解消できれば」と、広報グループ。初年度の販売目標は13万個だが、発売3カ月ですでに5万個を売り上げたという。
スリム化
保温機能を備えた弁当箱では、ご飯容器とおかず容器を上下に重ねて収納する円筒型のランチジャーが先輩格だ。しかし、茶碗3〜4杯分入れられる大容量タイプが主流なこともあり、「『重くてかさばるので持ち運びが大変』という声が多い」(大手メーカー)という。昭和40年ごろに登場して以来、売れ行きは安定しているが、利用者は車で仕事場に通う男性など一部の人に限られていた。
そんななかで最近、保温弁当の愛用者が増えている理由は、ご飯容器とおかず容器を横に並べ、ポーチに収納できるサイズまでスリム化したことが大きく、見た目も普通の弁当箱に近くなった。ランチジャーのような“武骨”なイメージはなく、電車通勤の人も手軽に使える。
また、サーモス企画室の山本敏雅さんは「最近は、(寒い時期だけでなく)年間を通して『温かいご飯が食べたい』という要望が強くなっている」と話す。「できたて」「炊きたて」を求める消費者心理を巧みにとらえ、愛用者はさらに増えそうな勢いだ。
意外に多い手作り派
外食店が充実している都心部で働く女性の中にも手作り弁当派は意外に多いようだ。
ミツカングループが平成16年、東京、神奈川などの首都圏に住む一人暮らしの女性会社員125人を対象に行った食生活に関するアンケート調査(複数回答)によると、平日の昼食に「手作り弁当を持参する(ことがある)」と答えた女性は38・4%に上った。フリーペーパーのシティリビングが昨年実施した「OLマーケットレポート」には、「昼はご飯を持参し、おかずのみを買う」という声も寄せられており、昼食代節約や栄養バランスを考えて、ご飯を持参しようと心がける女性の姿がうかがえる。