火を使って食べ物を焼く−。太古の昔、人類の火の発見とともに始まった最古の調理法が、近ごろちょっとしたトレンドになっている。
意外にも「世界初」
「ホントに焼いた 本焼そば」
こんなユニークなネーミングのカップ焼きそばが人気を呼んでいる。
「『焼いていないのにカップ焼きそば?』という疑問から開発が始まったんです」と話すのは、エースコック商品開発グループの後藤正明さん。
カップ焼きそばが誕生して30数年。同社では4年がかりで、「世界初」の実際に“焼いた”商品を開発した。従来は、麺(めん)を蒸してから油で揚げるだけだったが、これに約400〜500度の遠赤外線で焼く工程を加えた。後藤さんはこう明かす。
「ガスバーナーやオーブンなども使って試行錯誤を重ねました。麺を均一に、しかも芯(しん)から香ばしく焼き上げる遠赤外線にたどり着くまでに2年を要しました」
お湯を注いで待つこと3分…という作り方は従来品と変わりはないが、湯を捨てる段になると違いが出てくる。湯にうっすらと焼き色がつき、湯気にのって香ばしいかおりが立ち上るのだ。麺は焼くことで引き締まり、コシや弾力がある。キャベツなどのかやくにも「焼き」が加えられ、並々ならぬこだわりを感じる。
「フライ麺からノンフライ、生と“進化”するカップラーメンに対して焼きそばの変化は横ばいだった。焼くという本質的ながら、新しい価値で市場を盛り上げることができれば」と、後藤さんは意気込みを見せる。
うまみ凝縮
国民食のカレーにも「焼き」商品がお目見えした。永谷園の「こんがり焼きカレー」は、カレーに生卵、溶けるチーズをのせて焼く北九州・門司の名物、焼きカレーをヒントに商品化された。
ご飯を用意し、上からカレーソースをかけて添付されたトッピングをふりかけ、オーブントースターで焼く。粉チーズやパン粉などがブレンドされたトッピングは、焦げ目がつくと表面にサクッとした食感が生まれる。普通のカレーにはない、その口当たりが人気の理由だ。
一方、和食のみならず、ラーメンスープのだしでも利用され、全国的に人気上昇中の素材が九州名産「焼きアゴ」。今秋、ミツカンから発売された「七宝つゆ」にも使われている。
アゴはトビウオのこと。ゆでてから乾燥させる煮干しに対して、焼きアゴは焼いてから乾燥させる。小魚独特の生臭みを取り、うまみ分を閉じ込めるためにまず焼くのだとか。同社では約30種類のだし素材からさまざまな組み合わせを試し、焼きアゴ、サバ節、昆布など7種類をブレンドして京風のつゆに仕上げた。
「焼きアゴは香ばしいかおりだけでなく、他の素材と組み合わせることでうまみやコクをプラスすることができる」(同社ドライ事業カンパニー)という。
また、お菓子でも「大人のトッポ 焦がしキャラメルカスタード」(ロッテ)、「メルティーキッス なめらか焦がしミルク」(明治製菓)など、「焦がし」に注目が集まる。
香ばしい風味を付けたり、うまみを閉じ込めたり、新しい食感をもたらしたり…。「焼く」は、繊細なおいしさを演出する古くて新しい調理法なのだ。