この3年間で職場での「心の病」が増えていると感じている企業は約6割にのぼり、その多くが30代に集中していることが、財団法人「社会経済生産性本部メンタル・ヘルス研究所」(東京都渋谷区)が行った調査で明らかになった。年々深刻になる職場での心の病について、専門家は「自己管理も必要だが、企業が現状を認識して、しっかりと対応する必要がある」と指摘している。
調査は今年4月、上場企業2150社を対象に行われ、218社から回答があった。
まず、最近3年間で心の病が「増加傾向にある」と答えた企業は61・5%。4年前の調査では48・9%、2年前は58・2%で、その割合が急速に増えている。特に、従業員が3000人以上の企業で「増加傾向」と回答したのは66・2%にのぼり、大企業ほど心の病が増えている。
どの年齢層に多いかと尋ねたところ、30代が61%と最も多く、40代(19・3%)、10〜20代(11・5%)を大きく引き離した。前回、前々回の調査よりも、30代と答える割合は高くなっており、心の病がこの年齢層に集中していることが明らかになった。逆に、40代と50代は減少傾向にある。
職場のメンタルヘルスに詳しい、神戸親和女子大学大学院の丸山総一郎教授(精神医学)は「30代といえば、団塊ジュニアの世代。採用人数が多く、職場での競争も激しい。次の段階に進むのも大変な状況にあるのでは」と分析する。また、雇用形態が変化し、一部の正規職員に仕事が集中し、過重労働になる傾向も。30代の正規職員が非正規職員をうまく使いこなせず、自分ですべてかぶってしまうケースもあるようだ。
「苦しくても、目標や希望があればいい。近くに支援者がいればいい。でも、職場の人たちも余裕がない。助けてあげたくても、個人の仕事が増えてしまって、どこをどう手助けすればいいかわからない、という状況でもある」と丸山教授は指摘する。
今回の調査でも、「個人で仕事をする機会が増えた」という質問に対し、「そう思う」「ややそう思う」と回答したのは合わせて67%。「職場での助け合いが少なくなった」と答えたのは49%、「職場でのコミュニケーションの機会が減った」との回答は60・1%にのぼった。
職場でのコミュニケーションが減ったり、助け合いが少なくなった、という企業ほど、心の病が増えたと答える割合が高くなっており、同研究所では「職場における横のつながりの回復などが課題」と提言している。
ただ、横のつながりを回復するといっても容易なことではない。丸山教授は「心の病に対応できるシステムや制度をつくる必要がある」と指摘する。外部のEAP(従業員支援プログラム)を利用して従業員が相談しやすい環境を整えるなど、「企業がきちんと予算をとったうえで、対策を考えてほしい」という。
しかし今は、増え続ける従業員の心の病に対して、企業側も対応が追いついていないのが実情。それだけに、従業員側の自己管理も重要となる。
丸山教授は「心の病は他人事、と考えている人が大多数でしょう。しかし、患者さんをみているとよくわかりますが、バリバリと仕事をしているように見えていた人が突然、病気になり、本人も、周囲もびっくりするのです。そうならないためにも、まずはきちんと休みをとることが必要。寝ずに仕事を続けられるわけがない。オーバーヒートしないように自己管理を徹底してほしい」とアドバイスしている。