中高年層を中心に愛好家が増えている「大人向けの塗り絵」商品を、文具メーカーが相次いで発売している。商品販売は出版社が先行して人気となり、おかげで色鉛筆の売り上げが「久しぶりの活況」(中堅メーカー)といわれるほど伸びた文具メーカーに、塗り絵ビジネス参入を促した。特殊な効果が出せる筆記具をセットにするなどして、本格派の利用者も納得させる商品展開を打ち出している。
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百貨店の文具売り場には、「大人の塗り絵」関連の商品コーナーも登場=東京都中央区の高島屋日本橋店 |
塗り絵は下書きの図柄に色を塗る作業が脳を刺激し、認知症にも効果があるとされている。昨年秋ごろから中高年層に人気が出て、書店では特設コーナーも設けられた。
ぺんてるは7月初めに塗り絵と筆記具をセットにした「健脳セラピーシリーズ」を発売した。杏林大学医学部の古賀良彦教授に監修を依頼し、中高年向け、大人向け、子供向けに分けて計6種類を売り出した。
塗り絵の一部はセザンヌやゴッホら印象派の名画を採り上げた。認知症予防には輪郭のはっきりした塗り絵が効果的との実証結果から、高齢者向け商品の「脳を若返らせるぬり絵」には浮世絵を採用した。
文具メーカーならではの特色も出した。これまで発売されている商品は色鉛筆を使って塗るケースが多かったが、ぺんてるはクレヨンで描くことで「油絵のような表現効果が出せる」(同社)特殊な紙でできた商品も販売。価格は4000円前後で、初年度で5億円の売り上げを見込む。
独メーカーのステッドラー日本法人も今春、塗り絵商戦に参入した。下絵と見本に加え、36色セットで1万円近い価格の高級色鉛筆を組み合わせた商品「カラト」を発売。色鉛筆は、水を含ませた筆で色をにじませることで水彩画のような表現ができる「水彩色鉛筆」を使用した。
一方、塗り絵人気の追い風を受けて、色鉛筆の売り上げも好調だ。
三菱鉛筆では入門セット(1050円)を発売し、「地味な文具の世界ではかなりのヒットとなっている」(同社)。色鉛筆は最低限必要な12色に絞り、「これから新たに塗り絵をやってみようという潜在的な消費者を狙った」という。
大人向けの塗り絵商品は、9月中旬の「敬老の日」ギフトとしても需要が高まりそうだ。文具メーカーはこれまで「文具以外の商品を展開するケースは少なかった」(ぺんてる)が、塗り絵ブームを機に新商品の開発に力を入れるメーカーもあり、今後は商品の多様化がさらに進みそうだ。