救命活動に命をささげる海上保安庁の潜水士を描いた漫画「海猿」が一昨年から映画化やドラマ化でブームを起こし、海上保安官の志願者が急増する効果を生んでいる。これに対し、航空自衛隊も「後に続け」とばかりに、空から救出活動を行う航空救難団を題材にしたテレビアニメの制作に協力し、今年1〜3月に放送。しかし、目に見える形で隊員の応募増にはつながっていないようで、海保と自衛隊で明暗が分かれている。
海保
「海猿」は、週刊ヤングサンデー(小学館)に連載の漫画を平成16年、初めて映画化。今年5月に続編「LIMIT OF LOVE 海猿」が公開され、先月には500万人を突破する大ヒットになった。いずれも海上保安庁が全面協力し、迫力ある水中や海上での撮影を行っている。
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観客動員500万人を超える大ヒットになった「LIMIT OF LOVE 海猿」(2006フジテレビジョン/ROBOT/ポニーキャニオン/東宝/小学館/FNS27社) |
その効果の象徴ともいえるのが、今年10月入校の海上保安学校(京都府舞鶴市)の採用試験。海上保安庁によると、採用予定数約100人に対し、2作目の映画公開直前の4月3〜10日に受け付けた志願者数は昨年より978人増え、過去最高の5467人を記録。最終合格者は254人で倍率21・5倍の狭き門となった。
1作目の公開後の平成17年4月入校の志願者も前年より約3割、約700人多い3160人が集まったという。
海保の広報担当者は「映画をきっかけに、海上保安庁に目を向けてくれる人が増えたようだ。自衛隊の広報の方からも『よかったですね』と言われました」と胸を張る。
効果を裏付けるもう一つのデータが、毎年秋に東京で行われる海保音楽隊の定期演奏会だ。定員約1400人に対し、昨年は過去最多の5257人が応募、前年の2倍以上になった。担当者は「ちょうど、テレビドラマが放送されていた時期で、その影響が大きかった」と話す。
空自
一方、空自の航空救難団を題材にしたアニメは、月刊コンバットマガジン(ワールドフォトプレス)に連載された漫画をもとにした「よみがえる空−RESCUE WINGS」。
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空自の航空救難団を題材にしたアニメ「よみがえる空−RESCUE WINGS」(バンダイビジュアル/制作協力:航空自衛隊) |
石川県小松基地の小松救難隊に配属された救難ヘリコプターの新人パイロットの苦闘と成長を描いた作品で、テレビ東京系列で全12話が放送された。
しかし、東京地区の平均視聴率は、日曜の未明という放送枠もあって1・6%にとどまった。
空自によると、パイロットを目指す航空学生の志願者は平成15年度まで4000人前後で推移していたが16、17年度は3200人台に減少しており、「好景気で自衛隊への志願者自体が減っている」(関係者)。番組は当初、実写ドラマとして企画の持ちかけがあったが、撮影の難しさなどからアニメに変更されたという。
空自の広報担当者は「PRの一環で、大きな反響が返ってくることを狙ったわけではない。アニメは深夜枠としては健闘した」とするものの、自衛官などの採用への影響については「今年はまだ募集中で、はっきりとした数字は分からないが、厳しいようだ」。
モデルとなった小松救難隊のおひざ元、石川県地方協力本部も「応募状況は例年並み。アニメは残念ながら県内では放送されなかった」という。
ただ、アニメ放送中に行ったプレゼントには約370件の応募があり、中には「アニメを見て救難隊に行きたいと思いました」=男性(17)=といった声も寄せられたという。
空自広報は「救難モノとして『海猿の二番せんじ』という印象が強かったのかも。タイミングが悪かった」としながらも、「日の当たりづらい仕事の真実の姿を紹介できた。少しずつ効果が出てくれたら」と話している。