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手軽で割安、市場急成長
ケータイ小説人気 若者には紙より身近… 
8月18日(金) 東京朝刊 by 海老沢類
携帯電話の小さな画面で小説を読む人が増えている。持ち運びが便利なうえ、場所を選ばずに楽しめる…そんな手軽さに加え、データ通信の定額制が普及して割安感が広がったことにより、市場は急成長しているようだ。サイト上では、読者の熱狂的な支持を集める「ケータイ作家」も生まれた。平成の読書スタイルを変えつつある「ケータイ小説」事情とは−。

携帯電話に小説を配信(撮影・海老沢類

メール感覚で
都内の会社に勤める女性(28)は就寝前、携帯電話に配信された人気作家、石田衣良さんの小説を読み進めるのが日課だ。

「片手で操作するから、紙の本を読むよりも楽。バックライト(液晶照明)のおかげで、暗い中で読むこともできる」。魅力にとりつかれ、現在3つのサイトに会員登録し、普通の本を買う感覚でダウンロードするという。

携帯電話向けの小説は、平成12年にYoshiさんが配信した「Deep Love」が先駆けとされる。後にテレビドラマ化されるほどの人気を得たことから、大手出版社も続々とサイトを立ち上げた。

料金体系はサイトによってさまざま。角川デジックスなどが運営する「文庫読み放題」は、月額315円の会費を払うと、100作品以上が読み放題になる。「本屋さんに足を運ばなかったような人が、通勤・通学中や、夜寝る前にメール感覚で利用している。読者の広がりを感じる」と角川デジックスの中尾文宏さん。サービス開始から3年で会員数は倍増。20〜30歳代の女性を中心に、1日約20万人がアクセスする。昔からの読書ファンに配慮し、縦書きやルビ付きを選択できるようにしたという。

「女王」誕生
売れ筋作品も、紙の本とは違いを見せている。

都内在住の内藤みかさん(35)。昨年、出張ホストの兄とJリーガーの弟の間で揺れる独身女性の恋愛を描いた小説を新潮社の「新潮ケータイ文庫」に連載したところ、並み居る有名作家を抑えてアクセス数1位に躍り出た。他の無料サイトでも1日16万アクセスという驚異的な数字を記録し、無名の存在から「ケータイ小説の女王」と呼ばれるようになった。

「紙の本は読まなくても、携帯を見ない若い人はいないはず。メールで使う話し言葉のような私の文体が、携帯というツールに合っていた」と内藤さん。内藤さんに触発されて携帯に作品を発表する人も増えており、各サイトとも、講座を開いたり、文学賞を設けたりと、「ケータイ作家」発掘に本腰を入れている。

定額制後押し
インターネット関連出版社インプレスによると、携帯電話向け電子書籍の市場規模は、15〜16年の1年間で、1億円から12億円に伸びた。新規参入の動きは活発で、その数字はさらに拡大していることが予想される。

急成長を牽引(けんいん)したのがパケット通信料の定額制だ。これまでは文字や画像を見る際に加算されるパケット通信料が高額になりがちだったが、ここ1年で携帯電話各社が相次ぎ定額制を導入。紙の本よりも安く買える作品が増え、手軽に楽しめる環境が整った。

博報堂生活総合研究所の林光・主席研究員は「携帯を見る習慣が定着している世代にとっては紙でなくても、内容が同じなら問題ない。場所を取らず、ゴミが出ないという利点もあり、現代社会に適したサービスといえるかもしれない」と話している。

1話40〜60円 漫画サイトも充実
漫画サイトも充実してきた。ドコモ、au、ボーダフォンの3社合わせ、サイト数は約60に上る。国内最大の292作品を配信している「コミックi」「コミックシーモア」では、北斗の拳や東京ラブストーリーといった人気作品を提供。1話につき40〜60円で読むことができる。サービス開始2年で、1カ月のダウンロード数は当初の3000から580万(今年7月)に急増した。

拳銃(けんじゅう)を撃つシーンでバイブを振動させたりと、携帯の特性を生かした機能を備えるのが特徴。「当初予想したのは若い男性ファンだったが、女性からのリクエストが予想以上に多かった」と同サイトを運営するNTTソルマーレ。現在、人気上位3作品は女性向けが占めるという。

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