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花の都のホームレス事情
パリ セーヌ河畔のテント生活
8月16日(水) 東京朝刊 by 山口昌子
広々とした芝生にコテージ風の建物。ジーンズにTシャツ姿でくつろぐ男性たちの姿は一見、バカンスを楽しんでいるかにみえる。ところが、彼らはホームレスで、夏になる前はパリ市内のセーヌ河畔や道路などで「テント」生活をしていた。

「テント」はこの冬、非政府機関(NGO)の「国境なき医師団(MSF)」が同市内の路上生活者を中心に300個、配布した。防寒用でもあるが、ホームレスが路上で寝たりしている姿にすっかり慣れっこになった市民の注意を、「海に浮かぶ遭難防止用のブイ」(MSF)のように引くのが同医師団の目的だ。

1960年代後半、アフリカなどの紛争地での難民支援、救済が内政不干渉の大義名分の下でおろそかにされている状況に反発した若いフランス人医師たちが「内政干渉の権利」を唱えて創設したのが、MSFだったことはよく知られている。

「テント作戦」は、今や世界各地に支部を持ち、ノーベル平和賞も受賞したMSFが、なお創設当時と変わらず、新鮮で独自性あふれる発想をできることを示している。触発されて、個人で「テント」を寄付する者も続出し、パリ市とその周辺には現在、500個の「テント」が存在している。

その「テント」が夏場を迎えて、パリ市当局の方針でセーヌ河畔などから一時、撤去された。防寒の必要がなくなったというのが表向きの理由ながら、セーヌ河畔に恒例の人工海辺、「パリ・プラージ」が設置されるほか、観光シーズン入りして「テント」が目障りになったからという理由も指摘されている。もっとも、ドラノエ同市長は必死で否定しているが。

政府も「テント」論争を機に、ホームレスの収容施設の改善に乗り出した。「テント現象が顕著にした状況」なる報告書も、ボートラン社会結束担当相に提出され、700万ユーロ(約10億3900万円)の緊急援助資金も決まった。

「安定した住居」として、パリ郊外などの公立病院の1部など1000室をホームレスに解放することも決まった。冒頭の施設もその1つだ。従来の収容施設では滞在期間の限度が数日で、大半は1夜過ごして朝食後には出て行く仕組みだ。新施設は長期滞在が可能なうえ、1人部屋もOK。滞在しながらの職探しや社会復帰も可能となる。

フランスのホームレス人口は公式発表で8万6000人に上るのに対して、収容施設は定員総数2万6000人に過ぎないから、慢性的に不足している。ホームレス対策は来春の大統領選の争点の1つにもなっている。

短期の緊急収容施設にいるホームレスの中には定職に就いている者が16%もいる。

エリート校を卒業して大手銀行に勤務した者が中年なって離婚、アパートと子供の親権を妻に渡し、景気の良さそうなロシアなどの外国企業にトラバーユしてはみたものの、その会社が倒産して、文字通り路頭に迷ってしまったケースもある。

アパートの所有者は、家賃を踏み倒される可能性がある失業者や低所得者には借さないので、気が付いたら、ホームレスになっていたという場合も決して珍しくない。

冒頭の光景は、ホームレスの優雅なバカンスどころか、誰もがホームレスになり得るという今のフランスの怖い一面を映し出した真夏の怪談話の1シーンでもあるのだ。

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