三菱自動車が今年1月に発売した「i(アイ)」は、乗り心地、走りやすさにこだわった軽自動車だ。価格は122万円から。軽自動車としては高めで、「プレミアム感」を強調している。
|
若い女性をターゲットにした三菱自動車の「i」だが、50代以上の男性にも人気だ |
フロントフェース(車の前面)はウサギを思わせる。商品計画部上級エキスパートの福井紀王さんは「思い描いた顧客層は若い女性。軽自動車に『お母さんが乗る車』というマイナスイメージを保ちながら、普通車を買う余裕はない。そんな女性を狙った」という。
ところが、ふたを開けてみると、反応が強かったのは50歳以上の男性層。購入者全体の5%程度とみていたのに、実際は30%を占めた。「斬新なデザインが予想外にこの世代に受けた」と福井さんは驚く。
戦後の第1次べビーブーム期に生まれた「団塊の世代」は平成19年以降、“定年”を迎える。その数は800万〜1000万人ともいわれ、「巨大な消費市場」として注目を集めている。
キリンビールは寺尾聡やチューリップなど同世代のアーティストをテレビCMに起用。サントリーは、この世代に人気だったウイスキー「オールド」をリニューアルした。団塊世代に照準を合わせた戦略が広がる一方で、思わぬ商品が人気を集めるケースもある。
マンション販売大手の大京が東京・四谷で販売する「ライオンズ四谷タワーゲート」は、これまでに販売した268戸のうち約半数の140戸の購入者が退職直後や退職を控えた世代だった。
「団塊」を意識したセールスはしなかったが、「広めの1LDK、2LDKの間取りが、『退職後は夫婦でゆっくり暮らしたい』と思う団塊世代のニーズをとらえた」と同社東京支店の桜田強副部長はみる。郊外からの住み替えが多く、「いろんな場所に行くなら都心が便利」と迷わず購入する人がほとんどだった。
以前の高齢者には「郊外でゆっくり老後を」のニーズが強かった。しかし、「まだまだ現役」の意識が強い団塊世代は、都心志向が強い。立地へのこだわりがある半面、内装や設備、価格の高さはほとんど気にせず、値段の高い高層階から売れていくとか。
団塊世代の消費動向について、桜田さんが指摘する。「自分にとって何が一番必要かをしっかり見抜いている。必要なら、セールスがいらないほど。自分の中に絶対的な価値観を持っている」
巨大市場「団塊の世代」。その需要を取り込むのは簡単なようで、一筋縄ではいかない。