日帰りで利用できる「都市型温泉施設」が増えている。環境省によると、温泉を利用できる全国の公衆浴場は一昨年度、過去最多を数えたが、一方で温泉を備えた宿泊施設は減少傾向にある。温泉業界で今、何が起きているのだろうか。都心にある都市型温泉施設の1軒を訪ねてみた。
六本木に“沸いた”
オフィスや商業店舗が立ち並ぶ東京・西麻布の一角に7月、温泉を利用できる公衆浴場が開業した。「六本木天然温泉 zaboo(ザブー)」。フロントではスーツ姿の会社員が目立つが、館内を進むと雰囲気は一変。専用の館内着に着替えた男女が思い思いにくつろいでいた。
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露天の足湯を楽しむ来館者=東京都港区西麻布の「六本木天然温泉 zaboo」 |
施設は、地下階を含む9階建てビルの地上1〜3階、地下1、2階にある。地下では神経痛や冷え性の解消、疲労回復などに効果があるという天然温泉や、洞窟(どうくつ)風呂、サウナを楽しめる。一方、地上階は男女共用で、高層ビルが一望できる露天の足湯のほか、温熱浴やウオーターベッド、レストランも。施設内ではこのほか、アロマオイルを使った顔や体のトリートメントも受けられる。
東京都中野区の音楽療法士、国分由佳さん(37)は「仕事の疲れを癒やしてくれる場所。職場の近くで気分転換ができ、うれしい」とほてった顔で話した。
総支配人の後藤康介さんは「仕事帰りの方が気軽に立ち寄り、『充電』できる場所にするため、オフィスなどが集中する六本木を選んだ」と都心進出の理由を語る。来館者は1日平均600〜700人。深夜も営業しており、法人契約も少なくないという。
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ゆったりとできる広い岩風呂=東京都港区西麻布の「六本木天然温泉 zaboo」 |
宿泊施設は苦戦
人が集まる場所に立地を求めるのは、ここ数年の“温泉新規参入”の傾向だ。兵庫県尼崎市に一昨年、オープンした「つかしん天然温泉 湯の華廊(かろう)」は、ショッピングセンターの近くにある。従業員は「買い物や仕事帰りの利用者が多い」と話す。
だが、新規参入には苦労もある。
zabooの後藤さんは「この業界に進出するには、1日にくみ上げられる湯量など行政の基準をクリアしなければならない」と打ち明ける。
基準を設けている理由について、環境省自然環境局は「源泉の湯量には限りがあるため、温泉の保護と開発促進のバランスを取る必要がある」と説明する。温泉法4条では、都道府県知事が新しい温泉の掘削を認めるのは、近くにある既存の温泉に及ぼす影響力や公益を害する可能性がない場合に限定している。
とはいえ、環境省が平成17年度にまとめた資料では、温泉が利用できる公衆浴場は16年度に過去最多の7294カ所に上った。逆に、温泉を備えた宿泊施設は過去10年で最も少なくなり、1万5332カ所。では、宿泊型の温泉施設は魅力が薄れたのだろうか。
日本温泉協会専務理事の寺田徹さんは「社員旅行や団体客などが減少しているため、宿泊施設が苦戦を強いられている」としたうえで、「『気軽さ』を求める個人客や家族連れに対応できるような工夫が必要だろう」と話す。
ここ数年、美容や健康の志向が高まり、若い女性を中心にスパなどにも人気が集まっている。「スパセラピスト」を育成している日本スパカレッジの副校長、新川敦子さんは「(宿泊型の温泉施設でも)ボディーマッサージやスキントリートメントの専門家を置くなどして、特色を打ち出すのも1つの方法」と話している。