お盆に欠かせない「線香」が、最需要期を前に値上がりしている。原料である香木の白檀(びゃくだん)や沈香(じんこう)の価格高騰が理由だが、中国の経済成長、原油高でもうけた中東の“オイルマネー”が関係している。香をたく文化をもつこれら地域の富裕層が、香の消費を増やしているという。
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原料価格が高騰している線香。お盆をひかえ、業界関係者は頭が痛い=京都市内の販売店 |
線香の国内生産量の約7割を占める兵庫県・淡路島。生産者17社でつくる兵庫県線香協同組合によると、白檀の価格は3年間で約2倍に高騰した。吉井康人理事長は「昨年5月に卸価格を2割上げたが、吸収しきれない」とため息をつく。組合内には、白檀の使用量を数%減らして対応している企業もある。
白檀の量を減らすとにおいは薄くなるが、産地委は「合成香料を使用せず、天然ものを維持したい」との思いが強い。そこで、「10月には再値上げを検討する」(吉井理事長)とか。
線香メーカー最大手の日本香堂(東京)は今年4月、卸値を平均8%値上げした。老舗メーカー、孔官堂(大阪)も4月から7割近い商品を平均1割値上げ。ともに15年ぶりの卸値改定だった。
国内メーカーの大半は、白檀をインドネシアなど東南アジアやインドから輸入している。東ティモール紛争や一昨年末の津波被害、森林保護強化などで生産量は減少傾向にある。沈香に関しては平成16年にワシントン条約で保護対象となり、希少性も高まった。さらに、経済成長著しい中国や石油富豪が多い中東で、香の消費量が増えたことが追い打ちをかけた。
「近年、市場には中東から大量のオイルマネーが入り、買い付けが急増している。残ったものが日本に来る感じ」と吉井理事長。
創業300年の老舗、松栄堂(京都)は、沈香は直接、東南アジアなどから買い付けているが、売買の現場で中東の需要が爆発的に増えたことを実感。畑正高社長は「かつては一部の人たちが消費の中心だったが、すそ野が広がっていると感じる」という。
経済産業省の工業統計表によると、国内の線香類出荷金額は年々減少している。16年は278億9800万円で、5年間で20%近く減った。合成香料を使った安価な外国製品が増え、国内産は厳しい。
そうした中での香木価格高騰に、孔官堂は「品質を落とすくらいなら値上げは仕方ない。線香は日本の伝統文化だ」。値上げはまだ実施していない松栄堂も、「歯を食いしばる。白檀を必要としない商品開発も求められるだろう」と話している。(内山智彦)