手軽さに加え、多様化が進み、人気が広がる立ち飲み屋。勢いに乗り、さらに客層を拡大しようと、「狭い」などと敬遠していたOLや学生など若い女性客を取り込む動きも出始めた。ブームはまだまだ立ち止まる気配はない。
|
女性客でにぎわう横浜駅西口の立ち飲み屋。女性スタッフによる接客が特徴 |
接客は女性のみ
JR横浜駅西口にほど近い商店街に7月19日にオープンした立ち飲み屋「ちょいのみや」。女性店長の笠井里津子さん(24)をはじめとして接客は女性スタッフのみというのが“売り”だ。店の周囲には百貨店やオフィスビルが立ち並ぶだけに、「女性客を積極的に取り込むのが狙い」と店長。
また、お酒を飲むだけでなく、「ひとり暮らしの人が食事に立ち寄る店にしたい」と、年中無休で営業時間も一般の立ち飲み屋より早い午後3時からとしている。さらにスタッフのなかには、店長の妹の美奈さん(22)と祖母の弘子さん(76)もおり、アットホームな雰囲気だ。
料理のメニューも、手作りの冷ややっこや煮物、おばあちゃん特製のいなりずしなど、総菜屋を思わせる内容となっている。
開店から2週間余り。店長は「女性客は全体の3割ほど。職場の中で(立ち飲み屋の)輪が広がり、リピーターになってくれている女性客が目につきます」と話す。
こまやかな配慮
「(立ち飲み屋は)狭くて不便」「荷物が置けない」「清潔でない」…。外食産業の動向を調査しているビストロメイトリサーチ(日立情報システムズ)が今年2月に、立ち飲み居酒屋への不満について意識調査をしたところ、女性からはそんな声が多く寄せられた。
「ちょいのみや」はどうだろうか。先輩の女性社員と帰宅途中に立ち寄ったという永田沢佳(さわか)さん(22)は、「店内のイメージの明るさにひかれて飛び込んだ」と話す。開店したばかりであるため、もちろん清潔さに問題はないが、荷物置き場が設けられ、女性客を意識したこまやかな配慮がうかがえる。
お酒があまり飲めない永田さんだが、「飲める梅酒の種類が多いのがうれしい」と、さっそく女性スタッフと“梅酒談義”を始めていた。
「これも女性店長ならではの品ぞろえです」と笠井店長は胸を張る。
厳しい要求水準
「女性スタッフだけでお店を維持するのはけっこう大変です」と話すのは東京・新橋で2年前に開店し、都内の人気立ち飲み屋となった「豚娘(とんこ)」の長谷川恵子店長。寿退社に体調管理の難しさなど、一般企業と同じ悩みを打ち明ける。
とはいえ、ビストロメイトリサーチの調査では、立ち飲み屋は「新しい形態のお店」として、女性の期待度が高まっていることがうかがえる。長谷川店長は「無理せず、今来ている女性客を大切にしたい。友達はもとより将来、恋人やだんな様まで連れてきてくれるように長い目で努力したい」という。
「ちょいのみや」にお酒を納め、笠井店長に助言をしているという酒店「藤沢とちぎや」(神奈川県藤沢市)の平井順一社長は職業柄、店の盛衰を多くみている。ブームの立ち飲み屋について、「店が狭く客との距離が近く滞在時間が短い分、実はサービスの内容が厳しく求められる」としたうえで、「特に女性客は要求の水準が高いし変化を求めるので、緻密(ちみつ)で継続的な努力が欠かせない」と同店の奮起を促している。
高級高層ビルに“入居” 表参道ヒルズにも登場
首都圏では4年ほど前に、立ち飲み屋のブームが始まった。英国パブのような洋風店から、新橋の豚娘のようにスタッフが全員女性の店まで多種多様。さらに、高級ブランド店が入るような高層ビルに入居する立ち飲み屋も。
大阪では串カツで有名な老舗「赤垣屋」は、昨年暮れにオープンした東京駅前の商業ビル「TOKIA」に開店。店内では「浪速のお立ち飲み講座」と題して、“浪速立ち飲み道”をアピールし、若い女性店長とともに話題となっている。
また、東京・表参道ヒルズにある立ち飲み屋「はせがわ酒店」は品ぞろえも高級だが、100円単位の値段設定で飲みやすく、おしゃれな環境とあいまって、女性や高齢者に人気が出ている。