ストリートミュージシャンを支援する自治体が増えている。特定の場所を開放して心置きなく演奏してもらい、街の活性化につなげることなどが狙いだ。中にはFM局と連携しデビューのきっかけ作りを行う県も出てきた。これまで肩身の狭い思いをしてきた路上のミュージシャンたちも行政との“共演”で確かな居場所を手にしつつある。
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「さいたま新都心けやきひろば」で歌うEMIさん。子供たちも集まるのどかなスペースだ |
ジョン・レノン・ミュージアムにほど近い、さいたま市の「さいたま新都心けやきひろば」。屋外のこのスペースにEMI(エミ)さんの歌声が伸びやかに響く。メジャーデビューを目指す地元のミュージシャンだ。
「前は大宮駅前で通行人や警察官の冷たい視線を浴びながら歌っていたんですけど、ここは決められた場所なので安心。歌ってて気持ちがいい」
この広場、実は「埼玉ストリートミュージシャン制度」の登録者に開放している指定場所。EMIさんはその登録者の一人だ。
同制度は埼玉県が「若い世代による地元文化の創造」などを目的に、さいたま市などと連携して立ち上げた。今年3月から登録者を募集し4月から同市内2カ所を開放している。常時募集していて、これまでに県内外から約60組が登録した。
「メジャーデビューの橋渡しになれば」(県文化振興課)と、希望があれば写真や音源などをFM局NACK5やテレビ埼玉に提供する支援も行っている。
福岡市も、昨年4月から「ストリートパフォーマンス支援事業」を本格実施した。市内8カ所を決まった日時に開放している。担当者は「街のにぎわいにつなげるのが狙い。人前に出てうまくなってほしい」という。
東京都でも「ヘブンアーティスト」と銘打った事業を行い、歌手や大道芸人、合わせて約260人以上が認定されている。
今、路上の歌い手たちに支援の目が向けられるのはなぜか。フォーク歌手で白鴎大教授の山本コウタローさんは「肌のぬくもりのない情報が多くなっている今だからこそストレートに声の温かさが伝わるストリートミュージシャンの存在が改めてクローズアップされているのでは」と語る。
一方で行政サイドには、ストリートミュージシャンの活動場所を決めることで、調和を図りたいという思惑もある。音楽プロデューサーで全国のストリートミュージシャンと交流を深めるYASSさんは、「行政支援は中途半端」と指摘する。
フランス全土で町中をミュージシャンに開放する音楽祭「フェット・ド・ラ・ミュージック」をパリで見たYASSさんは「パリ中に歌が流れる様子を見て素晴らしいなと思った。渋滞してもだれも文句をいわない。日本でも年に1度でいいから、そんなふうに大々的にサポートしてほしい」と話している。