今夏の国内・海外旅行者の大幅増に伴い、旅行かばんの売れ行きが好調だ。特に海外旅行でお世話になるのがスーツケース。今年は軽さと丈夫さを程よく両立させた新素材や、米国などの厳しい荷物検査に対応した特殊な鍵を標準装備したタイプが主流になっている。色も以前のように地味ではなく、預けた荷物を受け取るときに見分けのつきやすい明るいものに人気が集まっている。
重さ半分
東京の日本橋高島屋によると、今年上期の旅行かばんの売り上げは昨年同期と比べ29・4%増。特にスーツケースは「ポリカーボネート」と呼ばれる新素材の樹脂を使った商品が売り上げを伸ばしている。売り場担当の石井裕さんは「軽くて丈夫な点が受け入れられている」と話す。
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スーツケース売り場にはポリカーボネート製やTSAロック対応の商品がずらりと並ぶ=東京都渋谷区の東急ハンズ新宿店 |
ポリカーボネートは耐衝撃性や耐熱性などに優れ、ヘルメットや防弾材などにも使われている。スーツケースでは従来のプラスチック製に比べ重さは半分程度で、ナイロン製より強度があるという。特に開閉部に金属製フレームではなくファスナーを使い、より軽量化したタイプが、若者を中心に人気が高い。
東急ハンズ新宿店(東京)では、品ぞろえのほとんどをポリカーボネート製で占めている。売り場担当の新田義幸さんは「航空会社に預ける荷物には重量制限があり、旅行者はなるべく軽いスーツケースを求める傾向がある」と話す。
TSA公認
最新のスーツケースで見逃せない特徴の1つが、米国連邦航空省運輸保安局(TSA)が公認する「TSAロック」と呼ばれる特殊な鍵を備えていることだ。
米中枢同時テロ以降、空港での荷物内検査が厳格化し、米国や英国の空港ではTSA職員が荷物内を調べる場合があり、航空会社に預ける荷物は原則的に施錠できない。ただしTSAロックに対応していれば、職員が特別な器具を使って開けるため、施錠していても鍵やスーツケースが壊される心配はない、というわけだ。東急ハンズ新宿店の新田さんによると、「旅行先が米国や英国以外でも、将来行く可能性を見越して購入するケースが多い」という。
昨年ごろから、国内メーカーの対応商品が出始め、今春にはバッグ製造大手のエースがポリカーボネート製のTSAロック対応商品を発売。マーケティング部マネジャーの難波敏史さんは「生産が追いつかないほど引き合いがある。日本人には『日本より治安の悪い海外では、荷物に鍵をかけられた方が安心』という心理がある」と話す。
難波さんによると、人気色は赤やゴールド。「明るい色は傷が目立ちやすいが、かばんの傷は旅の思い出や勲章と考える人が多くなった。色が個性的なら、自分の荷物を見つけやすいうえ、目立つので盗難防止にも役立つ」と話す。
個性求める女性
イトーヨーカドーは6月から、1200通りの内外装などの色の組み合わせと、2種類の鍵、2つの大きさから、好みによって選べる「オーダースーツケース」(3万4000円から)の注文受け付けを始めた。
注文から納品まで最低約3週間かかるものの、外装は12色、内装は10色、中の荷物を固定するためのバンドも10色から選べる。鍵もTSA対応かカード式のどちらかを選ぶことが可能。さらに、外装にシャボン玉など3つの絵柄を追加料金で入れることもできる。色で特に人気が高いのは水色や黄色だという。
同社が平成16年夏、男女856人を対象に行ったアンケート調査によると、スーツケースを購入する際に重視する点は、男女とも(1)使いやすさ(2)機能−の順となったが、3番目に男性が挙げたのは価格、女性は色・デザインだった。
オーダー商品の開発理由について、担当者は「特に女性の間に、他人とは違う色やデザインが欲しいという要望が強い」と話し、「旅行市場が拡大を続けるなか、団塊世代のリタイア後に予想される旅行需要の高まりにも対応した」としている。
≪スーツケース選びの基本≫
▽軽さと丈夫さの優先度
▽使い勝手のいい鍵
▽収納力
▽ハンドルと車輪の使い勝手
▽日ごろの自分の旅にふさわしいサイズ