TOP | 宝 塚 | 映 画 | 百貨店 | T V | 音 楽 | 舞 台 | インタビュー | 話 題 | 訃 報 いまやポップスの世界ではインディーズ勢が一定の勢力をもつ。インディーズはポップスの専売特許ではなく、ジャズの世界にもある。世界的に見れば、むしろジャズのほうが先だったが、それはともかく、山中千尋は平成13年にインディーズでデビューして以来、ヒットを飛ばし続けているジャズピアニストだ。その山中が、大手のユニバーサルに移籍し、いわゆるメジャー移籍第1弾となるアルバムCD「アウトサイド・バイ・ザ・スウィング」を7日に出す。あす6日には東京都内で発売前夜祭と銘打ったイベントも予定している。その素顔は？　話を聞いた。 text & photo by ENAK編集長 確信に満ちた音 ENAK編集長もインディーズ時代から山中を聴いていた。「Living Without Friday」(13年)、「Leaning Forward」(15年)の2作品を産経新聞紙面で紹介したこともある。前者はデビュー作。カモメが飛んでいるイラストをあしらった、さわやかな装丁にひかれて手にしただけだったが、果たして聴いてみたら演奏に魅了された。「Leaning Forward」はDVD。ジャズの、インディーズのDVD作品ということ自体が物珍しくて購入したら、映像的にもおもしろかった。 「Leaning Forward」でその演奏姿を目にしていたが、「アウトサイド・バイ・ザ・スウィング」発売を前に7月末に東京都内で行われた、販売店関係者らへのお披露目演奏会で初めて生演奏に接して、小柄な女性であることを発見し、意外の感に打たれた。楽器は体格で鳴らすわけではないが、それほど彼女の演奏は力強い。音が大きいとか、ワイルドだというのではない。確信に満ちた音なのだ。 NYを拠点に なぜ、大手に移籍したのか。これまで出した作品はいずれも、外資系CD店のジャズチャートで首位を獲得している。ジャズの場合、大手メーカーが出す作品だから売れるとは限らない。たとえば大人気の歌手、綾戸智絵はインディーズのレーベルにい続けている。 「私は欧米を活動の中心にしたい。それには米国に拠点のあるメーカーがやはりいいかなと考えました。ジャズを演奏するのだという自覚、音楽性を高められるのではないかとも思います」 答えはきわめて音楽的だった。 東京の音大でクラシックを勉強していた山中は、米バークリー音楽院でジャズを学んだ。クラシックしか知らなかった彼女は異色の生徒だったらしいが、その異色さはむしろ好意的に受け入れられた。 在学中からその才能は注目され、あちらのジャズ専門誌の賞を受けたり、ジャズフェスティバルに出演したりした。卒業。選択肢に帰国はなかった。現在もニューヨークに暮らす。 「米国で吸収したいことがたくさんあるから、帰国するわけにはいきません。ピアノを弾き続ける限りは、少しでも自分が納得できるようになりたい」 国際性のかけらもないENAK編集長は、海外での生活はしんどいだろうと想像してしまうが、「そんなことありません。むしろ、東京にいるよりニューヨークで地下鉄に乗っているときのほうが落ち着けたりします」。 「楽天的な性格なのかもしれませんが、仕事があるかないかは、日本でも米国でも同じです。ただ、ニューヨークでのほうが自分のスタンスで仕事を続けられそうな気がしています。私はもともとのんびりしたたちなので、自分を一流の環境に置くことで追い立てないとだめだという面もあります。どんなに苦労しても、今後もニューヨークを拠点に活動したい」 ニューヨークにいて、米国に拠点のある会社から作品を出したい。欧米での活動を見据え、自分を高め続けたい彼女にとって、今回の移籍は音楽のうえで必然だったのだ。 音楽だけを見据えて 新作には、山中の現在の意欲が大いに反映されているという。 「私のやりたいことはこうだという点を、より強く打ち出しています。即興演奏は、こうなるだろうという予測をかわすようなものにしています。自分ならではの演奏スタイルをいつかはもちたいけど、今はたくさんのものを吸収し、それらを混成させるつもりです。その混成具合に個性を出したい。実際、ニューヨークの仲間たちはいろいろなスタイルで演奏しています」 インタビューのためレコード会社の応接室に現れた山中は、当たり前だけどやっぱり小柄だったが、すまし顔の、「アウトサイド・バイ・ザ・スウィング」の装丁写真とは違って、大きな目は、どことなくいたずらっぽく動く。育ちのよさを感じさせると同時に“お嬢様”ならではの、突拍子のなさも隠し持つ−というのが、勝手ながらの第一印象だ。 「東京の女性たちは“パーフェクト”過ぎます。ニューヨークだったら、化粧しないで、ジャージ姿で歩き回れるのに」とは音楽だけを見据えている、この人らしい発言だ。 「アウトサイド・バイ・ザ・スウィング」という題名は、アンドレイ・タルコフスキーの「惑星ソラリス」(1972年)というマニアックなSF映画のせりふから拝借したそうだが、さらに「スイングのそばでアウトする」といった意味も込めた。スイング＝ジャズの本道を守りながらも、少しはずれたところで自分らしさを追求する。 そういえば山中の演奏からは、デューク・エリントンやセロニアス・モンクといった個性豊かなジャズの巨匠たちに通じる、ジャズピアノならではの芳香が漂ってくる。スマートさやスイートさではなく、意識的に道を外れて、いろいろなところで衝突し、摩擦を起こし、そこから生じるあらゆる雑音をも音楽に昇華させる。メジャーに移籍して、どんな“外れ方”をし、音楽を作っていくのか。ますます目が離せない。 information Outside by the Swing ユニバーサル/UCCJ-2040 ￥3,000 アウトサイド・バイ・ザ・スウィング アイ・ウィル・ウェイト インパルシヴ ヒズ・ガット・ザ・ホール・ワールド・イン・ヒズ・ハンズ ティアード・ダイアリー 八木節 クレオパトラズ・ドリーム まつりばやし/ハッピー・ゴー・ラッキー・ローカル ラグ リヴィング・ウィズアウト・フライデー エンジェル・アイズ オール・ザ・シングス・ユー・アー キャンディ 山中千尋(p)、ロバート・ハースト(b)、ジェフ・”テイン”・ワッツ(ds) ◆event 9/6（火） 「アウトサイド・バイ・ザ・スウィング」発売記念前夜祭 開場：18:30／開演：19:00 会場：石丸電気SOFT2　7階　イベントホール 内容：ミニライブ・即売会（当日会場で同CD購入者にサイン会実施） 石丸電気SOFT3(03-3257-1300)で参加券配布中 9/9（金） 「アウトサイド・バイ・ザ・スウィング」発売記念イベント 会場：モザイク銀座阪急　1F　イベントスペース 開演：18:30 内容：ミニライブ 問合せ：HMV数寄屋橋　03-3289-1211 ◆profile 米国バークリー音楽院在学中より幾多の賞を受賞し、数多くの有名アーティストと共演を重ねる。 13年10月に、ジャズピアノのレーベル「澤野工房」から第1作『Living Without Friday』を発表、大手CDショップのジャズ・チャートで一躍トップセールスをマーク。 14年12月にニューヨークの若手トップミュージシャンを従えた第2作『When October Goes』。ジャズ・チャート初登場第1位。 15年初頭に行なった「山中千尋　ニューヨーク・トリオ　ツアー2003」の模様を伝えたTVドキュメンタリ「情熱大陸」（TBS系）でその国際的な活動をさらに広く知らしめる。 15年8月には上記ツアーの大阪公演を完全収録したDVD『Leaning Forward』を発表。ポップスを含む全ジャンルのDVDチャートでベストテン内に初登場ランクインした。 現在もニューヨークを中心に世界各地で活動を続け、各地で満場の観客を集めた2003年暮れの来日ツアーの後、2004年1月には米NBCラジオ、カーネギーホールへ出演、5月には1年半ぶりとなる新作CD『Madrigal』の発表と同時に「ツアー2004〜Madrigal」を全国7ヵ所で開催。8月、11月にも再来日、「ニューヨーク・トリオ　ツアー2004」として各地で公演を行なった。 今年1月にユニバーサル クラシックス&ジャズと契約。8月に「情熱大陸 Special Live」（大阪公演）、「東京JAZZ2005」に出演、9/7に待望の移籍第1作『Outside by the Swing』を発表する。(公式サイトより) ▲このページの上に戻る すべての著作権は、産経新聞社に帰属します。 (産業経済新聞社・産経・サンケイ) (C)2005.The Sankei Shimbun All rights reserved.