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愛華みれインタビュー
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ハリウッドにはクリスマスにちなんだ映画がたくさんあるが、「34丁目の奇跡」は、ファンタジーにとどまらず、人間の信じる心の大切さなどまで描いている点で、代表的な作品といっていい。その映画のブロードウエーミュージカル版が「34丁目の奇跡 Here’s Love」。「自分はサンタだ」と主張する老人、クリス・クリングルに宝田明がふんする日本版が再演される。クリスと接することで夢を信じる心を取り戻すキャリアウーマン、ドリス・ウォーカーを演じる元宝塚トップスター、愛華みれに話を聞いた。
text & photo by ENAK編集長


クリスマス目前のニューヨーク。弁護士のフレッド・ゲーリー(別所哲也)は少女スーザンを通じ、その母親ドリス・ウォーカー(愛華みれ)と出会う。デパートの宣伝部で働くドリスは、サンタクロースそっくりのクリス・クリングル(宝田明)をクリスマス商戦に起用し大成功。しかし、クリスは「自分はサンタクロース」だと主張、ニューヨーク中が大騒動に・・・。

1947年、モーリーン・オハラ、ジョン・ペイン主演で映画「三十四丁目の奇跡」(ジョージ・シートン監督)が作られ、94年にはリメーク版「34丁目の奇跡」(レス・メイフィールド監督)も。こちらはリチャード・アッテンボローがクリスを演じた。


あくまでドリスとして

──ドリス・ウォーカーという女性はどんな人物ですか?
愛華みれ 夢見がちな少女だったドリスは、本来なら奇跡も信じているし、サンタさんに出会ったら「サンタさん!」とさけんで、いの一番に飛びつくような女性だったのに、幸せの絶頂で夫に去られ、男には負けないという気持ちだけを糧にキャリアを積みます。男の人を大嫌いになったのはではなく、理想が崩れたことの傷が癒えない。その傷をサンタクロースにとかしてもらい、包んでもらい、最後は本当の愛を知ります。

──ご自身と似ているような点はありますか?
愛華 はははは。似ているところがあるといえば、ありますね。私も宝塚歌劇団という夢の世界にいて、夢見がちな、神様はいると信じている人間です。奇跡は起こると思っているし、目に見えないものを大切にしています。

あいか・みれ 鹿児島県出身。元宝塚歌劇団花組トップスター。昭和60年「愛あれば命は永遠に」が初舞台。11年、「夜明けの序曲」でトップスターに。13年11月、「ミケランジェロ」「VIVA!」東京公演千秋楽で退団。14年から女優として「チャーリー・ガール」「ゴースト〜ニューヨークの幻〜」「十二夜」「キスへのプレリュード」などの舞台で活躍。テレビドラマや映画にも活動の幅を広げている。宝塚時代の愛称はタモ。


タモさん ──ドリスを演じるうえで心がけているようなことは?
愛華 目に見えないものを大切にしている、といいましたが、この舞台の稽古場でも、目に見えない部分をお互いが作り上げる作業をしています。頭で計算して、それを追っているだけだと、つまらないものになっていることがあります。もっと“入り込んで”いくとドリスが見えてくるのでは。愛華みれがチェックしていると、そこに愛華みれがいてしまうので、あくまでドリスとしてフレッドとサンタさんと向き合ったときの感情を大切にしないといけない。

──演出の吉川徹はなんと?
愛華  吉川さんいわく「せりふなんていい」。そこにいるフレッドとドリスがどう向き合っているかが大切だから。それがうまくいくと楽しいんですよ。実際の暮らしだって、“次にくる行動”は必ず違うじゃないですか。だから、私の表情や声の出し方で相手の方の演技が変わる。それが人間らしくて私は好きかな。

──再演(初演は昨年11〜12月)ですから、主演のメーンの3人(宝田、別所、愛華)は前回と同じ
愛華 でも、この1年で何をしてきたかで、やはり違うじゃないですか。会わなかった期間に何があったんだろう、と思えるようなものが、それぞれがあるんです。

──その共演者、宝田明、別所哲也はどんな役者さんでしょうか?
愛華 宝田明さんは、もう日本人ではない、というぐらいのおしゃれさがある。日本のミュージカル界を作ってきた大先輩ですし、ゴージャスさを感じますね。別所さんも日本人離れした体形でいらっしゃる。再演なので、初演時には感じられなかった細やかな部分を埋められます。みなさんの長所も欠点も分かりつつ、こういう顔をしたときは、こういうことなんだな、という助け合いが生まれています。

観てください、じゃなくて観るべき

──映画ではクリスが果たして本物のサンタクロースなのかの判断は、観客にゆだねられているような部分もあったかに記憶していますが
愛華 今回は、クリスが最初に登場する場面から「きっとこの人はサンタだな」と思わずにはいられない、なんともいえない説得力があります。今回の宝田クリスは人間を超えた何かをもってらっしゃる。初演時は、悪いことをしたら怒られそうだなと思わせるサンタでしたが、今回は戒める存在ではなくあらゆるものを許し、いやしてくれそうです。

タモさん ──僕らは客席で本物のサンタを観ることができる?
愛華 それは、あなたがサンタを信じているか否かにつきる! あなたが信じているか信じていないかを裁判されるんです。ただ、信じたときに奇跡が起こるんですけど……あ、私、涙が出そう。だからね、信じるべきだと思う。ああ、すごい、なんで涙が出るんだろう? 信じたいと思っている人は大勢いるはずなの。他人にはいえない、何かをしょいこんでいる人たちは“宝田サンタさん”に奇跡を起こしてもらうために舞台を観ていただくと、本当に何かが起きると思う。

──言い切りますね!
愛華 ENAK編集長さんに宝田サンタが見えるか見えないかは、心次第。ただ舞台を観たからってどう、ということではないの。あなたの心がどうなのよ! っていう話なの。響かない人には「お前が悪いんだ!」っていいたいぐらい。

──うへ〜!
愛華 こうやって自信をもっていえる作品ってなかなかないんですよ。私は本来、再演はきらいですし。初演がよければ、なおさら再演はいや。それが今回は再演させていただける機会に恵まれてよかったと思っています。こういいきれないなら再演をしてはいけないとも思う。ごめんなさいと思って1年を過ごした人も、がんばっていたかなって反省する人も、きっといやされる年末になると思う。自分の来年のためにこの舞台を観るべきだと思う。観てください、じゃないの。観るべき! それぐらい好きな作品ですね。

──では、タモさん自身はサンタクロースの存在を信じますか?
愛華 うーん。サンタクロースと断定されると…。私は小学校3年生で「夢を描き、夢の翼を休めるな」という言葉を座右の銘にし、今でもそうなんです。実際、宝塚のことをよく知らずに音楽学校を受験し、合格できただけでも奇跡でした。そこで終わるつもりが、いまやなんと女優なんていっている。すべてが奇跡に近い。

──サンタクロースはともかく奇跡を信じるということですね?
愛華  出演作品との縁について考えるんです。大勢いる女優の中からとりあえず私が選ばれたことの意味を考えなくてはいけない。自分がやりたいか否かではなく、縁であり、今学ぶべきことがそこにある。そして台本は、そのとき学ぶべきことを教えてくれる、人生のバイブルなんです。

男役経験を自分の個性に

──ところで宝塚歌劇団を退団して4年ですか? 女優という仕事はいかがですか?
愛華 どうなんでしょう。宝塚では、私たちは舞台中央を意味するゼロ番に向かって下積みもするし、係長・部長クラスのこともする。サラリーマン的な社会なんですね。トップになったときには、こうしようという理想がある。目標がある。一方、女優という仕事について私はまだ“ピラミッド”を見つけていないの。それはいっぱいやることがあるからなんです。ぜいたくですが、私は歌も歌いたい。踊りも踊りたい。やってみたいことがあまりにもたくさんある。やりもしないで、これはきらい、などとはいえない。いまは中国大陸ぐらい広い場所に立って、「さて、どこに向かおうか」と360度見渡している状況かな。

タモさん ──なるほど
愛華 私はどこに流れていくんだろうっていう感じ。案外、流れのままに生きているんですよ。いったん決断しちゃえばどんどん切りひらいて進むんですが、ある程度は流れを見ている。ああ、激流ですね。のまれないようにしよう、とか。激流に逆らって道を変えようとは考えない。激流のときほど激流の中にいる。で、何もないときは激流を探しにいくかもしれない。逆境に強いので、みんなにびっくりされる。

──宝塚在団中もそうでした?
愛華 歌劇団から「トップスターになりたいと自分から言い出す積極性がない」と、怒られたことがありました。でも、私は、私がふさわしいというのなら歌劇団のほうで私をトップにするのではないか。そういうときがくるのを待ちますと答えました。ちょっといやらしい言い方でしょ? でも、トップになれないには、それなりの理由があるはずで、そこをクリアしないままトップになっても大成功はできないと考えていました。

──男役のくせは抜けましたか?
愛華 いいえ! むしろ、それを自分の個性にしようかなと割り切りはじめたところです。それで髪も切ったんです。一時、女になろうなろうとして、気分を害したので、自分が。あははははは。

──そうなんですか
愛華  だいたい世間には、男役だったことに対する“偏見”みたいなものがあります。必要以上にめめしくしないと「ああ、男役だったからね」といわれてしまう。だけど、ふつうの女性って、そんなにめめしくしないでしょ? ヒールはいて、髪にカールかけたら、とたんに「女らしくなった」っていう。でも、“女らしさ”ってそんなものじゃないことを私は男役をやっていたから知っている。

──なるほど
愛華 女っぽさ、男っぽさってなんだうろ。実は宝塚のトップスターって女らしい人が多いの。トップになるような人は、ひとりでなにもできないような人が多いの。案外、娘役さんたちのほうがひとりで全部やっている。周りの人たちがすべてを作って、そこに乗るだけの人がトップスターには多いんですよ。どちらかというと寂しがり屋。「みんな、いて、いて」っていって、自分では案外なにもしていない。

──そういうものですか
愛華 宝塚時代は男らしさを追及していましたけど、私はニヒルだからかっこいいと思ったことはいちどもない。スマートさなんてどうでもよかった。

──そうでしたか
愛華 「夜明けの序曲」のときでした。しっかりしてて、なんとかするのが男らしさだというけれど、私は男だって泣くし、男だってつらいんだよという点を出したいと演出家の先生に伝えました。強さだけが男らしさではない。そこで泣いて頭を下げることこそ男らしさではないか。頭を下げるシーンにしてくれと。潔く「おれがすべての責任をもつから」という。それが哀れで、みじめに見えるほうが、実は大きな男に見えるのではないか。一般に宝塚の男役の男らしさというと、クールに肩越しに流し目をするようなタイプが求められますが、私は、泣きじゃくるし、背中も丸める。ヨレヨレの姿をあえて見せました。また、トップ時代はそういう作品が多かった。「ルードヴィヒII世」は精神錯乱の人だったし…。カッコいい男性の役はほとんどやっていないんです。最後は「ミケランジェロ〜神になろうとした男」でしたし。

ツレさんに励まされて今がある

──先日、宝塚の大先輩である鳳蘭さんに話を聞いたのですが、ツレちゃん(鳳の愛称)は「男役を捨てる必要はない」といっていました
愛華 私、在団中にツレさんに励していただいたことがあります。

──いつごろですか?
愛華 二番手のときに。適齢期もくるし、どうしましょうと相談したら「いいのよ、あなた華やかなんだから、がんばって」と。宝塚でやっていく意味を教えていただきました。退団してからも、「無理に女にならなくても。そのままでいて」というメッセージをいただいたんですよ。

──そうでしたか
愛華 あのときツレさんがいなかったら、私は宝塚を辞めていた。先輩のありがたさを感じます。

──ツレちゃんとの接点は?
愛華 (大先輩ですから)もちろん歌劇団でご一緒させていただいたことはありません。たまたま今回の舞台の音楽も担当している八幡茂先生が、ツレさんのある舞台の音楽を担当していたとき、先生に「宝塚の大先輩でこういう人がいるから舞台を観にいくといい」と勧められたのがきっかけでした。当時、私ちょっとクサっていて。神戸の劇場でした。八幡先生が作った歌をツレさんは天使の役で歌ったのですが、すっかり感動して、私もこの歌を歌えるようになりたいと。楽譜まで入手したんですよ。それで初めてツレさんに手紙を書いて。

タモさん ──そうでしたか
愛華 ツレさんに救っていただいて今があるかもしれない。

──自然体というのか謙虚というのか、ともかく他人を押しのけて前に出るタイプではなかったんですね
愛華 押しのけたくはない。手を挙げて、たまたま選ばれることはあったけど。他人を押しのける必要はない。そのおかげで損をしたことはあるんですよ。でも、今は損しても10年後にそれに助けられることはある。だから、私はそれを損とは思わない。他人がどう、じゃないんですよ。自分との闘いですから。在団中、下級生によくいっていたんですが、他人の家の芝が青いのをうらやむのではなく、それがいいならうちも植えればいい。知らず知らず他人がうらやむお庭になっていることだってある。

──つまり?
愛華 他人をうらやんだとき、なぜその人がいいのかを観察して、自分でもがんばればいいということ。自分みがきは自分でしかできないですから。めっきがはがれないものにしないと続かない。私は続けたい。神様に魂を差し出したときに、私の魂は透明であってほしい。ひどいこと、悪いことは魂に刻まれる。私ってちょっとサンタさんに近いでしょ? サンタさんの前に立ったときに頭をなでてもらえるか否かは自分次第です!

──「34丁目の奇跡」は、タモさんにぴったりの作品?
愛華 はい。でも、そろそろ私にも奇跡が起きないかなあと思っているんですが、だれも現れてくれない。後ろから私の肩を抱き締めてくれる人募集中って書いておいてください!
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公演詳細は公式サイトでごらんください
34丁目の奇跡〜Here’s Love
東京公演
アートスフィア
12月16日(金)〜25日(日)


神奈川公演
グリーンホール相模大野
12月2日(金)


大阪公演
シアターBRAVA!
12月3日(土)、4日(日)

富山公演
富山オーバードホール
12月8日(火)


名古屋公演
中日劇場
12月13日(火)

公式ブログはこちら

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