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女優、前田愛インタビュー
ローティーンの女優たちが大活躍し、チャイルドとアイドルを合わせた造語“チャイドル”と呼ばれてブームになったのは平成8年から10年にかけてぐらいだったか。そんなチャイドルのひとりだった前田愛も今では21歳に。この春からは大学4年生になるという。ブームの衰勢とは関係なく「ガメラ3」「バトルロワイヤルII」…と、映画女優として着実に歩み続けている前田が、初めてのCDミニアルバム「night fly」(ポニーキャニオン)を出した。
text & photo by ENAK編集長


今だけを見つめて
かくいうENAK編集長、10年春に、栃木県佐野市で行われていた、チャイドル4人衆の主演映画「新生 トイレの花子さん」の撮影現場を訪れたことがあった。4人衆とはすなわち前田、浜丘麻矢、大村彩子、野村佑香である。

前田愛 過密スケジュールでの撮影だったので、たしかチャイドルへの取材時間は昼食時の十数分に限られていたと記憶している。子供らしい素直さで機嫌良く話してくれた浜丘に比べると、前田は壁を感じさせた。それは、すでに備わっていた女優としての風格のようなもののせいだったか。

「(チャイドルって)懐かしい言葉ぁぁぁ」

昔話を持ち出したら、そんな反応が返ってきた。ライダースジャケットふうの上着にジーンズのミニスカート。すっかり大人になった。だけど、あまり変わっていない。ふたつの相反する印象が渦を巻いていると、当時のことは一切覚えていないのだと話し始めた。

「もう全部忘れています、私は今のことしか考えられないんです。今は、この春から大学4年生なのでちゃんと卒業できたらいいな。卒業したら仕事に集中できるな。そういうことを考えます。いつだって1、2年先のことを考えるんですよ」

7年前映画の撮影現場で彼女に感じた「壁」は、すでに彼女の心が次のステップに向けられていたせいだったのかもしれない。

ただ、全部忘れたという言葉を額面通りに受け取っていいものか。姿勢として過去を振り向かないということかもしれない。実際、「『新生 トイレの花子さん』撮影当時は、すごく生意気で、『チャラの新曲はなかなかいい』なんて撮影現場でしゃべった記憶があります」と振り返ってみせる。当時産経新聞夕刊に掲載された記事を読み返せば、彼女が堤幸彦監督に「(ロック歌手の)チャラは結婚してからよくなった」と音楽談義をふっかけていたくだりがある。

そのぐらい音楽は大好き。当時も今も撮影の合間にはずっと鼻歌を絶やさず、録音に入ってしまうからと撮影スタッフからしかられたこともあるという。

番組作りの延長としての歌
にもかかわらず、本格的なCDを出すのは今回の「night fly」が初めて。CDを出さないかという依頼は何度かあったが、すべて断っていたのだという。

前田愛 「音楽をみなさんに提供するのは、私のやるべきことではないんです。私はあくまでお芝居がしたい。その世界と音楽とはまったくリンクしていない。少なくとも私にとってはふたつはまったく別の世界。そもそも私の歌なんかだれが聴きたいの? っていう気持ちもありましたし」

それが今回、「night fly」を作ることになったのは、声優を務めるアニメ番組「キノの旅」の作品づくりの一部と考えてほしいという説得に納得できたからだ。「キノの旅」では声優に加え「the Beautiful World」という番組終了時の歌もうたい、シングルCDにもなっている。「night fly」はその「キノ」関係の2曲に4曲を加え計6曲のミニアルバムとして制作された。つまりここまでなら番組作りの延長線上にある。作品づくりの一部だから、と納得したわけだ。

「エンディングテーマ曲をうたったことで、視野も広がり、知らない世界に飛び込んでみるのもいいかなという気持ちになりました」

はらをくくってしまえば、あとは怖いことなどなかった、と振り返るあたり、いかにもキャリアの長い役者らしい。

「うまく歌えるかなという不安は少しはありましたが、いったん録音現場に入ってしまったら緊張もありませんでした。だって、周囲にはその道のプロの方がいて、サポートしてくれるわけですから。私の不安なんていっぺんに吹き飛ばしてくれました。録音の現場は撮影現場とはやはりまったく違うものでしたが、大勢の人が集まって、最善を尽くしながらひとつのものを作る点は同じなんだなと知りました」

事前の企画段階では自分の音楽趣味などをスタッフに伝えた。たとえば今は米国ですい星のように現れた女性歌手、ノラ・ジョーンズがお気に入りなのだ、と。なにしろノラに出合って、ピアノの練習を再開したほどだ。いずれはジャズピアノもマスターしたいという夢を抱く。

なるほど「night fly」を聴くと「キノ」関係の2曲をのぞくと、ノラの音楽と近い感触かもしれない。すなわち、アコースティックで有機的な音楽だ。

やっぱり私は女優
声質も歌唱法もとても素直だから「night fly」を聴くと、ゆったりと落ち着いた気分に浸れる。今回は6曲入りのミニアルバムだが、フルアルバムもぜひ聴いてみたい。が、今のところ音楽活動については積極的に考えてはいない。

前田愛「自分の音楽をどう楽しんでもらったらいいか、いまひとつ分からないんです。歌が自己表現につながる行為だとすれば、お芝居とはかなり違うものだと思います。私は芝居が自己表現だと考えたことがないからです。たとえば私が出た映画は、私のものじゃない。映画はまず監督さんのものであり、製作にかかわるみんなのものだと思う。そもそも自己表現をするには自分が何者かを分かっていないといけません。そう問われても私は自分が何者かを分かっていません」

ともかく今は女優としての今後に気持ちは集中しているようだ。来年、大学を卒業すれば仕事に専心することになる。だが、これまでは常に学業との両立という課題を与えられていたから、芝居だけの生活がどういうものなのかイメージできないの。

「それ(仕事)だけしかないってどういうことなのかと考えることがあります。あと少しだけ、あと少しだけと…と、10年続けてきたわけですが、やっぱり女優の仕事が私にとってはいちばん。映画の撮影現場って大きなおもちゃ箱みたいで、すごく楽しいんです」

昔のことは忘れたという彼女が、これだけははっきりと覚えているというのが、松岡錠司監督の「トイレの花子さん」(平成7年)の現場。

「大人にまじって自分も責任をもたないといけないと教わりました。あれ以来、自分は作品の一部なのだという意識を持っています。よい映画って、携わった人ひとりひとりがみんな輝いている作品なんです。私が現場に呼ばれるのもまた、みんなが輝くためなのだと自覚したんです」

前田愛は、これからも自分が何をすべきかを適切に判断しながら、前進するのだろう。いつかまた、歌をうたうべきと判断するときがきたら、ノラ・ジョーンズのようにピアノの弾き語りに挑戦している…かもしれない。
information
night flyの装丁
night fly
ポニーキャニオン
PCCG-00676
¥2,520(税込)
1.夏の終わり
2.Cleansing
3.Night Flight
4.やさしい月(※作詞・前田愛)
5.キノの旅 何かをするために -life goes on- エンディングテーマ はじまりの日
6.テレビアニメーション キノの旅 エンディングテーマ the Beautiful World
Profile
昭和58年10月4日、東京都生まれ。
特技:英会話、ピアノ、殺陣
趣味:映画&音楽鑑賞、日本舞踊
免許:普通自動車
平成5年、マクドナルドのテレビCMでデビュー。
映画は「トイレの花子さん」(平成7年)、「新生トイレの花子さん」(10年)、「ガメラ3」(11年)、「バトルロワイヤルII」(15年)、「あずみ2」(公開中)、「極道の妻たち 情炎」(公開中)など。
公式サイト
www.granpapa.com/
production/maeda-ai/
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