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Fayray インタビュー
シンガーソングライターのFayray(29)が、英米ロックの佳曲をカバーしたアルバム「COVERS」(R and C)を出した。故ジョン・レノンの愛息ショーン・レノンら米国の音楽仲間たちと録音。新鮮な経験は自分にとって音楽とは何かを再発見するきっかけになったという。「ここから新しい一歩を踏み出します」と、次のステップを目指すFayrayに話を聞いた。
text & photo by ENAK編集長


見つけた仲間
Fayrayは平成10年にデビュー。最初は他人の楽曲をうたう歌手だったが、やがて製作監修も歌づくりも自身で行うようになった。

恥ずかしながら、Fayrayを最初に知ったときは、その名前からてっきりアジアの歌姫かなにかだと思い込んでいた。そう伝えると「よくいわれます」と苦笑した。東京出身。Fayrayは、古典映画「キング・コング」でヒロインを演じた女優、フェイ・レイをもじってつけたのだという。

Fayray 少女時代を米国で過ごし、そのころ観たミュージカル「ロッキー・ホラー・ショー」の中にフェイ・レイをたたえる場面が登場。覚えやすい名前だと考えて芸名にした。

そんなわけで今でも、ニューヨークにはプライベートでも仕事でも頻繁にでかける。そうするうちに知り合った音楽仲間たちと作品を作りたいと思ったのが、今回の「COVERS」の発端になった。具体的には「COVERS」の装丁写真を撮影した写真家を通じて知り合ったショーンを軸に、音楽家たちとの交流の輪が広がった。英米の既存曲のカバーなら違った環境で育ってきた音楽家たちとも円滑に意思疎通が図れるのではないかと考え、カバー集を作ることにした。

エルトン・ジョン、ニール・ヤング、ジミ・ヘンドリックス、モンキーズらビッグネームの、しかし、ちょっと隠れた名曲を選んだ。英国プログレッシブロックバンド、キング・クリムゾン「ムーン・チャイルド」は、日本のロック好きにはおなじみの古典だが、米国の共演者たちはまったく知らなかったという。

「いずれも、小さいころからなんらかの形で私のそばにいてくれた曲たち。なんらかの形で私の人生を変えてくれた音楽なんです。録音中に誕生日を迎えましたが、20代の後半でこの作品を作ることができてよかったと思っています」

自分の愛聴歌を自分の声を通じて聴き直したら発見があったのだという。たとえばジミ・ヘンドリックス「エンジェル」。天使との出会いを描く歌だが、「だれもが転機を求めて目に見えないものにすがります。たぶん、その“目に見えないもの”が天使なんでしょう。この歌では天使のそばまで自分のほうが飛んでいくと歌います。私もいつか変われるのではないかと思い続けていましたが、自分の力で変えないといけない。天使にすがるのではなく、自分で自分をひっぱりあげないといけないのだなと気づきました」。

音楽のキャッチボール
Fayrayは何が変わりたかったのか?

「(音楽の)キャッチボールをだれかとしたいという思いがずっとありました」

これまでの、自作自演で監修も自分でやる作業は、自分の思いを率直に形にできるメリットもあるが、孤独な作業でもあった。とはいえ、余分な説明なしに純粋に音楽的なやりとりができる相手はなかなかみつけられずにいた。そんな中で経験した米国録音だったわけだが、そこでの体験は新鮮なことばかりだった。

fayray 録音スタジオでは、過去の実績も来歴も問われることはなかった。ただ、音を出してうたって、それだけでよかった。

「いずれもベテランの人たちばかりで、威圧感もあって最初は緊張したけど、無駄な愛想、優しさはいらない。必要な言葉だけで動いていく。こちらが扉を開けば、向こうも同じだけ扉を開いてくれる。そんな氷が溶ける瞬間のようなものが多々あって、それが気持ちよかった。『今ここにいる君で一切が判断できるから』と。スタジオに入った以上はみんなが対等。すごく楽しかった」

信頼できる相手に音楽を、歌声を預けられる。預けるばかりではない。こうやりたいと伝える。

「たとえば生楽器中心でいきたい。テンポはミディアム以下でと。私はバラードやミディアムテンポのもつ独特の隙間が好きなんです。その隙間で聴き手は、曲について考える時間をもてるし、歌い手と聴き手が会話できる。そういうふうに聴き手が参加できるからバラードって自分の一部になると思うんですよね」

伝えたことが倍にもふくらんで返ってきた。「音楽って文字通り音を楽しむものだと、バッチリ教えてくれました」

ところで、隙間といえば今回ロバータ・フラックのバラード「愛は面影の中に」をピアノの弾き語りでカバーしている。全般に伴奏は今の米国ロックらしい、すすけた雰囲気に満ちているので、ひときわ印象的な録音になっているのだが、一つ間違えば失速して空中分解しかねない難しいスローテンポでうたいきっている。それこそ“間”がすべてを左右する。

「“間”は会話でもそうですが、経験しないと取り方が分からないですよね。だから若いときには出せない。やっとやっと今になってその難しさや魅力が分かりました。余白ですよね。その白が若いときは怖いんだけど、経験を重ねることで白は色を塗れる、字で埋められるチャンスなのだと気づく。いまはその白をどんな色に塗るか、だれと埋めようかと考えている最中って感じかな」

音楽のマジック
ボーナストラックとしてスタンダード曲「マイ・フーリッシュ・ハート」をピアノトリオで演奏している。ジャズピアニスト、故ビル・エバンスの実況録音盤「ワルツ・フォー・デビィ」の演奏をカバーしたものだ。最近ジャズピアノを勉強していてニューヨークに録音のため飛び立つ前に、日本で録音したものだが、さすがに初挑戦に尻込みして自分のピアノの部分だけ録音し直そうかと考えた。すると共演のドラム奏者、青山純が「セーノで一緒に演奏するから意味があるんじゃないか」。背中を押されて挑戦したら、弾くことができた。

Fayray 「方程式がなくても答えがでる。それが音楽だということを教えられて、ニューヨーク行く直前に人と人の間に生まれるパワー、お互いにもちよることのすごさ、そして信頼する人がいることで音楽がもっと変化することを、この曲で知りました」

音楽にはやはりマジックが存在するのだと再確認した。そのきっかけになった録音だからボーナストラックとして収録した。

「今の私が感じていることを、はっきりと出せた作品。この作品で一度、自分をリセットしました。そして、新たに歩き出すスタートにもなりました。自分を伝えようとして、なぜ理解してもらえないのかと悩んだときもありましたが、他人なのだから分からなくてあたりまえだと気づいたのです。伝えるのなら自分の中にそのための道具がなくてはならない。道具の出し方、しまい方、あるいは選び方。そういうのものが、わかり始めました」

今回のメンバーと、今度は自作曲の録音をしたいと、早くも次回作への構想を練っている。音楽のマジックに包まれたFayrayは、30代になって、どんな作品を生み出していくか。

information
CD「COVERS」
COVERS
1.Heaven / The Psychedelic Furs
2.Dreams / Fleetwood Mac
3.Angel / Jimi Hendrix
4.The First Time Ever I Saw Your Face / Roberta Flack
5.I Wanna Be Free / The Monkees
6.Tiny Dancer / Elton John
7.This Is Love / PJ Harvey
8.Moonchild / King Crimson
9.I Believe In You / Neil Young
10.The Wind / Cat Stevens
右は原曲のアーティスト名

公式サイト
www.fayray.net/
profile
昭和51年 東京出身。
4歳からクラシックピアノを習い始める。幼少期を米国で暮らし、1960−80年代の洋楽に大きな影響を受ける。
自分で監修したアルバムを4作発表。「白い花」「HOURGLASS」など。(公式サイトより)
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