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ENAK LONG INTERVIEW 2005 VOL.1 体操のお兄さん 佐藤弘道
NHK教育の「おかあさんといっしょ」は日本初の幼児番組として昭和34年に放送が始まった。だから中年になったENAK編集チョーだって、子供時代にはお世話になった。そして体操のお兄さんはヒーローのひとりだった。時代は変わって最近はお母様方のアイドルという側面も加わっているようだが、子供たちのヒーローであることに変わりはない。現在の佐藤弘道は10代目の体操のお兄さん。子供たちのヒーローとはほど遠い大人になってしまったENAK編集チョーは、子供たちにとってかくあるべき大人の見本である体操のお兄さんから、学べることは多々あるだろう、と会いに出かけた。

子供たちに「きょうは楽しかったな」と思ってもらいたい
「やっぱりさわやかだ」だ。これが第一印象。写真撮影に対する配慮で取材場所にわざわざ体操のお兄さんのかっこうでやってきてくれたが、こういう姿が似合うのは、うらやましい。そして、ああ、体操のお兄さんだ、と大いに納得させられてしまうのであった。

佐藤弘道 だけど、やっぱり、体操のお兄さんであることの苦労というものがあるのではないか? 下世話なENAK編集チョーは、まずそこが気になるのだ。

「ダンスと体操の違いを常に意識して動いています。それには、たとえば指先、つま先をしっかりと伸ばす。それから必ず左右対称に見せることが大切です。ダンスの場合の多くは、たとえば体の右側を使ったら左側は使わない、という例が少なくないんですよ」

なるほど、そういうものなのか。ちなみに番組内での体操は、まずダンスの振付家が動きを考える。それを基にお兄さんが体操に組み立て直すのだそうだ。

「食事は規則正しい時間にするようにしています。もちろんふだんから運動をすることは心がけています。特に、瞬発力が衰えないようダッシュなどは繰り返ししています」

体操のお兄さんは、番組の中だけではなく全国の子供たちと直接ふれあえるよう、舞台公演もある。たとえば2、3月には「NHKおかあさんといっしょ 弘道お兄さんとあそぼ! 夢のビッグパレード〜ぐ〜チョコランタンとゆかいな仲間たち〜」という舞台が待っている。会場はさいたまスーパーアリーナとナゴヤドームだというから、スーパースターのコンサートと同規模だ。そして、その舞台では宙返りなど番組以上に体を使うことが多い。舞台という広い空間で動きをアピールするためには、より大きな動作が必要だからだ。実際、足を骨折しながら宙返りをし続けたこともあったという。

「せっかくきていただいて、『つまらなかったな』と思われるのは困るんです。会場で泣き出してしまうお子さんも多いのですが、それでもおうちに帰って振り返ってくれたときに『きょうは楽しかったな』と思っていただきたい。僕には、それが最大のごほうび。『また、いきたいな』という気持ちを持ち帰っていただきたいんです」

基本的にはジムに通い、ジムにいけない日も自宅周辺のランニングを欠かさない。見習わなくては…。

幼時からの体操のススメ
いや、そうではない。下世話なENAK編集チョーが気にしたのは、たとえば番組や舞台を離れたときでも体操のお兄さんである責任感、意識を維持し続ける苦労はないか、ということだ。疲れて背中を丸めて歩きたいとき、フッと自分が何者であるかを思い出し、背筋を伸ばす。そんな苦労はないのか。

「僕は友人から『弘道は遠くにいても分かる』といわれたぐらい、子供のころから背筋を伸ばして歩いていましたから」

佐藤弘道 男子は柔道、女子は茶道が必修の幼稚園に通っていたのだという。そのため姿勢のよさはそのときに身について以来、一貫しているのだ。三つ子の魂百までも。あるいは二葉より芳し、か。いずれにしても、体操は幼いうちからしておくのがよい、というお兄さんの言葉には説得力がある。

「お子さんを大リーガーにしたい、あるいはサッカー選手にしたいと英才教育をされる親御さんもいらっしゃるでしょうが、たとえばサッカーの場合、きき足ばかりを使うおそれもある。体の左右を均衡に使う体操で、それを補正することは大切だと思います」

ともかく体操のお兄さんとしての資質は、もともと身に備わっていたわけだ。

「日常生活で体操のお兄さんをことさら意識することが必要になる場面はありませんよ。それに僕はタレントじゃありませんから、街を歩いていて気づかれるなんてことは、ほとんどありません」

笑うが、お母さん方の嗅覚は鋭いはず。

「うーん。ジャージー姿でいると、気づく方もいらっしゃいますね」

子供たちから教わること多い
ところで、体操のお兄さんをやっていて、得たものってあるのだろうか?

「子供たちから教わることは多いですよ。たとえば、はじめのころは子供言葉を使って接していたんです。『〜でちゅね〜』という具合に。ところが、子供のほうから『でちゅねじゃないでしょ』と注意されました。ひとりの人間として接することが大事なんですね」

佐藤弘道 2月16日には、番組から派生したDVD「イチジョウマンとあそぼ〜親子で挑戦!一畳忍法〜」(ポニーキャニオン)が発売される。イチジョウマンとは、番組での“共演”相手である忍者だ。一畳の畳を使った体操を教えてくれる。日本の住宅事情に配慮したきわめて実用的な体操。

「イチジョウマンは、おもしろいやつですねえ。彼はコミュニケーションツールのひとつとして親子体操をしているんです。親子体操ではBGMが流れていますが、あれは体操のためのBGMじゃないんですよ。つまり、音楽に合わせて体を動かす必要はない。自分たちのできる範囲で体を動かせばいい。それが親子体操のよさです」

友人の紹介でオーディションを受けたら合格。平成5年から10代目お兄さんとして番組に出演している。体育大学の出身。体操の指導法については大学で学んでいたが、指導の難しさも知っている。体操のお兄さんであることで、その難しさを乗り越えることができそうだ。

「体を整えるために体を操るのが体操。自分ではわかっていても、それを人に伝えるのは難しい。いちばんいいのは自分でやって人に見せることです。ただ『見せる』のではなく、『魅せる』にしなくてはいけない。今は、そう心がけています」

体操のお兄さんは、オフのときでも体操のお兄さんだった。さわやかさは偽れない。よしんば大人をだませても、子供をだますことはできない。納得の取材の後、ENAK編集チョーが取材場所のビルのロビーで、グズグスとカメラをしまっていたら、丸めた背中に「おつかれさまでした!」と元気な声をかけられた。振り向けば、お兄さんの笑顔。薄いジャージー姿は、早足にさっそうと寒風の街へと飛び出していった。背筋は、ピンと伸びていた。
text & photo by Takeshi Ishii/石井健


編集部からのお知らせ
PROFILE

佐藤弘道(さとう・ひろみち)
平成5年4月から10代目体操のお兄さんに。
イチジョウマンとあそぼ DVDパッケージ写真
イチジョウマンとあそぼ
〜親子で挑戦! 一畳忍法〜

ポニーキャニオン
www.ponycanyon.co.jp/
PCBK-50031
43分
¥2,940(税込)

2月16日発売



スペシャルイベント
NHKおかあさんといっしょ
弘道お兄さんとあそぼ!
夢のビッグパレード
〜ぐーチョコランタンと
ゆかいな仲間たち


2月11〜13日 
さいたまスーパーアリーナ
3月11〜13日
ナゴヤドーム
編集部から
1月号に寄せて
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