産経新聞ENAK 2月号
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ENAK LONG INTERVIEW 2005 VOL.3 高垣健
スピードスターレコードは、ビクター・エンターテインメント(東京都渋谷区の)の部署。一般に「レーベル」と呼ばれる。サザンオールスターズやUAらそうそうたる顔ぶれのCDを作っている。同社常務取締役、高垣健(56)は、平成4年の設立からスピードスターとかかわり、現在はその責任者になっている。その高垣が、あえて新人を世に送り出すための新しいレーベルを設立した。その名も“赤ちゃん星”、ベイブスター。音楽を愛する高垣の“青い衝動”の結実であると同時に現在の音楽状況を冷静に分析したうえでの新しく仕組み作りへの挑戦でもある。CDを作り販売する立場の人から今の音楽の状況をのぞいてみようとENAKは、ビクター・エンターテインメントに高垣を訪ねた。

選択肢はどちらに
サザンオールスターズらのCDを担当しているレコード会社の常務って、なんだかおっかなそうだな。根拠はないけど、漠然とそんなふうに考えていたら、取材のための会議室に現れた高垣は、情熱的に音楽を語り、なんだか、立場を超えてただの音楽好き同士が「そうですよねえ」と意気投合しているような雰囲気になってきてしまった。それは失礼なことかもしれないけれど、でも、そうなのだ。

高垣健 それはともかく、そもそもなぜ、ベイブスターという新事業を始めようと思ったのだろう。

「既存のレコード会社のシステムにおいてはアーティストの選択権はレコード会社側にありますが、その選択権を聴き手の側に委ねるべきではないかと考えたのです」

つまり、こういうことだ。

大手のレコード会社は、デビューさせる新人については厳しい基準があると同時に、製作宣伝から流通に至るまで複雑な仕組みが存在する。もちろん、ゆえに出てくる新人たちの質は高いわけだが、レコード会社の選別が必ずしも正解だとは限らないのではないか。とくに最近のアマチュアのレベルは向上している。聴き手の意識も変わってきている。そうした中で、従来の“少数精鋭”を届けるやり方だけがよいのかどうか。大勢のアーティストを世に出すやり方のほうが今の聴き手には適しているのではないか。

高垣はそう考えた。

そこで、少数精鋭ではなく“多数良質”のアーティストを聴き手に届けよう。デビューの間口を広げて、聴き手の選択肢を広げよう。しかし、スピードスターのような既存のレーベルでは、これはなかなか難しい。できあがった仕組みに変化を加えるのは困難が伴う。そこでベイブスターというまったく新しいレーベルを設立するに至った。

iPodのようなレーベルに
多数良質をうたうベイブスターは、毎月1アーティストをデビューさせる予定だ。第1弾が大阪の3人組バンド、アナタキコウ。アルバム「sweet montage A」は1月に発売された。第2弾がピアノの弾き語り女性、堀下さゆり。アルバム「カゼノトオリミチ」は16日発売される。 すでに6月までアーティストは決まっている。

高垣健 さらに、「新人のCDの価格がサザンオールスターズやSMAPと同じなのってよく考えると納得いかないでしょ?」とアルバムCD1枚の価格を税込み2,100円に抑える。そのために諸経費は圧縮する。これも既存の仕組みとは違うところで活動するベイブスターならではの“技”。スタッフだって6人に抑えた。1人1人がなんだってこなすつもりだ。

「社内ではiPodのようなレーベルにしたいと説明したんですよ」

iPodはアップルコンピュータの携帯音楽端末だ。高垣は昨年購入してすっかりとりこになったのだという。「これは音楽の革命だと感動すらした」。高垣が感動までしたのは、40GBのiPodならアルバム換算1,000枚分の楽曲が持ち歩ける点だ。携帯CD再生機など携帯型の音楽再生機は今までもあったが、持ち歩けるCDの枚数には限界があった。いつでもどこででも聴けたが、なんでもというわけにはいかなかった。

「iPodは、いつでも、どこででも、なんでも聴けるでしょ。これはいわば選択権をユーザーが獲得したわけで、その点で従来の再生機とは天と地ほどの違いがあると思うんです」

そしてiPodを手にしたら自分も、友人も、iPodに入れて持ち歩きたいからとCDをどんどん買うようになった。レコードでしかもっていなかった作品をCDで買い直すようになった。選択肢を与えられた聴き手は、今まで以上にCDを買うのではないか。高垣がベイブスターを作った背景には、そんな期待感もある。

もう一度おもしれえことを!
「12年前に興したスピードスターの原点もアンチ既成体制でした。しかし、スピードスターは12年の月日の中で巨大な存在になった。僕としてはここらで原点回帰したいという気持ちもありました。業界のアンチテーゼでありたい。それは同時に自己批判にもなるのですが」

高垣健 これまでビューを断った新人の数は少なくない。しかし、振り返ったときその理由は妥当だったのか。もう若くない。華がない。今ふうじゃない…。たいていは音楽とは無関係のことがらだった。

「アナタキコウは、もともとは自宅録音で作品を作っていた。ライブはしていなかったので、活動の範囲がなかなか広がらなかった。そもそも非常にひねったポップスを身上としてマニアックな部分もある。堀下もこぢんまりとした弾き語りライブを主体に活動していた。だけど、ともに音楽的な質は非常に高い。であれば、その音楽を聴き手に届けるのはレコード会社としての責務ではないかとも考えます」

当面、ベイブスターはスピードスターの二軍的な存在であっていいと考えている。もしも大きなヒットを放つアーティストが出てきたら、スピードスターから“再デビュー”すればいい。ベイブスターがスピードスターに刺激を与え、結果的にスピードスターのレベルがさらに上がる相乗効果も期待したい。

「当面、1作品の売上げ目標枚数は数千枚でいいと考えています。ただ、それで満足はしない。そこがインディーズ(独立系)レーベルとは違う点。営業・販売のルートはビクターのものを使うのだから、大ヒットという夢はきっちりと残して取り組みますよ。よいアマチュア音楽家がいたらどうにかしやりたいと思う。もう一度、おもしれぇことをやりたいな、という青い衝動のようなものがあるんですよ」

ベイブスター。スターの赤ちゃんが集うレーベル。高垣の音楽にかける情熱も、赤ちゃんのようにみずみずしい。



text & photo by Takeshi Ishii/石井健


編集部からのお知らせ
カゼノトオリミチ
カゼノトオリミチ
堀下さゆり
ビクター・エンターテインメント
http://www.babestar.net/
VICB-60002
¥2,100(税込)
16日発売予定


1. 仲よくなりたい
2. milk
3. 恋のチカラ
4. 君と笑った
5. アヒル隊長
6. カゼノトオリミチ
7. Clover
8.さんぽ
9. 指さし
10. Life




sweet montage A

sweet montage A
アナタキコウ
ビクター・エンターテインメント
http://www.babestar.net/
VICB-60001
¥2,100(税込)


1. WOMAN RECORD
2. 不思議なイト
3. ヌルイ雨
4. いけないところで
5. ポストマン
6. モーターガール
7. “SO”CHIME IN
8.眠たい電車
9. パンとホープ
10. 幻想港町


babe starのレーベルロゴ

babe starのレーベルロゴ

PROFILE
高垣 健(たかがき・たけし)
ビクターエンタテインメント常務取締役
昭和23年 神戸市生まれ
昭和46年4月 日本ビクター(当時) 入社。音楽事業本部洋楽制作室に。洋楽部宣伝課を経て、50年からフライング・ドックレーベル、インビテーションレーベルで制作を担当。
ビクター音楽産業(当時)邦楽本部制作2部長を経て平成4年6月、スピードスターレコード設立。9年、同レーベル本部長。11年取締役同レーベル本部長。15年6月、ビクターエンタテインメント常務取締役に。
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